シルクハットをクルリとかざし。
スティックを器用にヒュンヒュンまわし。
軽やかな燕尾服をヒラリと舞わせ。
足はスラリと強く地を踏む。
逆光に照らされた、そのシルエットは。
スティックを掲げ、声高らかに
「ビザール」
「ストレンジ」
「フリークス」
「ユーモラス」
「アンソーシャル」
(アンド…)
“センス・オブ・ワンダー”
バン!
【 奇妙な、不思議な、普通とは違う、滑稽な、一風変わった人 求ム! 】
世はまさに混沌の世界。明確な答えも、変わらないものも存在しない世界。ともに正しさを主張する、価値観の衝突が止まない嵐の中で。そのショーマンはこう考えた。
「色んな価値観や個性がぶつかりあってるならさ。それはチャンスだと思ったんです。ぶつかりあうってことは、それだけ色んな強い個性が溢れてるってことでしょ?それならさ…」
ペタペタと、街の壁に求人広告のビラを貼りながら。
「価値観の衝突の嵐の中で、強い個性の色が溢れる、虹の橋をかけられるんじゃないかって!」
そう、屈託のない笑顔で答えるのだった。
【 国籍不問、経験不問、家柄不問、人種不問、年齢・性別不問、身体・精神的特徴不問! 】
ナイアル・オブ・パラダイスは、多様な人々が溢れた世界だ。それは単純にアメリカの「人種のサラダボウル」なんて程度ではなく。国や人種、宗教や思想、場所や時代を超えて。
世界が生まれた当初は不安や恐怖から、人々の混乱と争いは絶えなかったが、ある時 かの「エイブラハム・リンカーン」と「ジョン・F・ケネディ」が、この世界のために立ち上がり、人々もそれに続くように、この世界をよくしようと、様々なところで活動を始めた。
「知ってる?この世界も、外の世界と同じように、何かみんなが幸せになれる凄いことをすると、賞が貰えて信用がグーーーッと上がるんだよ?」
信用が上がるとどうなる?
「幸せになれる。あ、信じてないでしょー。いやでもそうなんだよ。円もドルもペソもゴッチャだし、伝統なインディアンとか、デイ・ドリームは物々交換でしょ?お金よりも信用の方が大事かなー」
ペタペタと
「凄いことってのは何でもいいと思うよー。偉業でもいいし、作品作ってもいいし、争いをおさめてもいいし」
ペタペタと、街の壁に求人広告のビラを貼りながら。
「と、いうわけで」
クルリ
「私とサーカスをしませんか?」
バン!
【 混沌世界最大のサーカス グレイテスト・ファニーショウ! 】
この世界を行けば。いや、この世界でなくても路上やネットで楽器を演奏したり、歌を歌ったり、絵を描いたり、ダンスを踊ったり、手品を披露したり… 様々なパフォーマンスを披露している人々を見かけることがあるだろう。
気品ある英国の雰囲気を感じさせる人種「ルイジアーヌ」の「ヴィオレット」も、そんなパフォーマーの一人だ。
「君達ならねー なんかホラ、個性的で良い人そうだから、協力してくれるかなー?って思ったんだ」
混沌世界最大のサーカス?
「そう、折角多様な人々が溢れてるならさ。それを統一しようとするより、個性を活かした方が面白いじゃない。差別された黒人もインディアンも。最近、話題のLGBTQも。障害を抱えたり奇形でも。こう、煌びやかなスポットライトの下でさー 輝けたらいいじゃない キラキラって」
「奇妙な、不思議な、一風変わった人たち。それが集まった一つのFUNNY(ファニー)。行ってみないか、色とりどりの スポットライトの下、一晩中 光り輝く、魅力あふれる世界。それが、混沌世界最大のサーカス グレイテスト・ファニーショウ!」
…なお、きっかけは「ロッキー」だそうだ。「ロッキー」は70~80年代のボクシング映画シリーズで、負け犬の男がボクシングチャンピオンになるという、アメリカン・ドリームを絵に描いたような作品だ。
「路上パフォーマンスをしていたら、ロッキーに会いました」
と、彼女は ヴィオレットは言うが、それはロッキーを演じた俳優「シルヴェスター・スタローン」ではないのか… と思ったけど、映画の中の人物である「ロッキー」に会ったとしても、なんら不思議ではない説得力を持つのが、この世界の混沌さだ。「ロッキー」のアメリカン・ドリームに感銘を受けて、自分も何か大きなことをしたくなったとか。
「ランボーにも会ったよ」
流石にそれは嘘だと思った。
「コブラにも会ったよ。でも金髪だった。あれは、スタローンのコブラじゃないのかな」
それは紛れもなくヤツさ。
「最初のサーカスは、この世界で大まかに分けれられている9の人種をメンバーにして開催しようと思うんだ。私は貴方達と一緒に、残りのメンバー集めとか、舞台の準備とか、宣伝とか、実際のパフォーマンスを一緒に楽しみたいの!あ、成功したら、度合いに応じてちゃんと報酬は出すよ!上手くいけば、凄い多くの人に認めて貰えて、ニャカデミー賞とか貰えちゃうかも!」
そう、屈託のない笑顔で。それでいて強かな眼差しで真っすぐと見つめてくる。
「グレイテスト・ファニーショウへようこそ」
どこかの街を行く道中。探索者達は路上で手品やジャグリングなどのパフォーマンスをしている、サーカス風の衣装を着た「ヴィオレット」と出くわす。彼女はパフォーマンスを披露し、その場にいたまばらな観客から報酬を貰った後、探索者達をじろじろと興味有り気に見定める。そして、おもむろにポスターの束を取り出し、街の壁にサーカスメンバー募集の求人広告を貼りながら、混沌世界最大のサーカス「グレイテスト・ファニーショウ」を開催したい旨を語り、探索者達を誘う。
舞台が無ければ開催が出来ない。「場所」「施設と設備」を準備しよう。
「場所」は、どこでも構わない。PLに相談してもらい、どんな地域で開催すると良いか決定しよう。
「施設と設備」は、相談して決めた「場所」に関連する有力者に、価値Aの品を渡す、あるいは<信頼>や<説得>に成功することで、提供してもらうことができる。KPはPLが選んだ「場所」よって、交渉難易度や集まる人の量に多少のプラスあるいはマイナス補正を加えても面白いだろう。あるいは、価値Bの品を材料費として、<製作>をはじめとした技能にすることでテントなどを作ってもいいだろう。
知られなければ開催に意味はない。宣伝には様々な方法がある。<製作>や<芸術>で、ポスターや看板などの宣伝商材を創る。<コンピューター>や<経理>で、ネットワークを利用した広告やマーケティングを行う。<説得>や<信頼>で、支援してくれるパトロンやインフルエンサー、セカンドクリエイターなどの協力を得てもいいだろう。
「宣伝」で成功した手段×100人の観客が訪れる、KPはPLに伝える盛況具合の描写の参考にすること。
サーカスは、ヴィオレットを司会進行役として、メンバー9人、一人一人が順に演目を披露していく。演目内容は、探索者と誘ったメンバーの得意な技能や能力値を参考に、PLが自由に決定して構わない。技能成功、あるいはAPP×5などの判定に成功することで、演目は成功したとみなされる。演目が成功したら、KPは必ず観客が満足した様子をPLに伝えること。演目の内容が、だんだん派手で華やかなものになるように設定すれば、セッションが盛り上がるだろう。また、誘ったメンバーの得意な技能値は、特に指定が無ければ一律75%とする。BGMにクラシック音楽「剣闘士の入場」や、映画音楽「グレイテスト・ショーマン」を流すのもオススメだ。
「開催」で成功した演目の個数が、観客の満足度、そして報酬に反映される。演目が一つも成功しなかったら一割の観客が、すべて成功したら十割の観客が満足し、サーカスのメンバーを喝采する描写をするといいだろう。
満足した具体的な人数は【「宣伝」で成功した手段×100人】×【成功した演目の個数%+10%】だ。具体的な人数をPLに伝えることで、成功の満足度もより具体的になるだろう。
最初のサーカス開催時点では、いきなり報酬に繋がる黒字が出るわけでは無い。その後、エピローグとして、観客の口コミを通じてサーカスの人気が広まって、報酬となる収益と、この世界への社会的貢献に繋がっていく。
KPは【「成果」で満足した人数】×【シナリオ中判定に成功した回数】×【一万】を計算すること。そして、最終的に計算結果の人数にサーカスの噂が広まり楽しんだことを、PLに伝えること。
報酬は、広まった人数十万人毎に、価値Aの品物が1つ与えられる。百万人を超えたら、社会的貢献として「プレイヤーセクション」の「信用と賞」を参考に何かしらの賞を探索者達に与えることが望ましい。
最初のサーカスは終了した。初めてのことも多く、失敗や反省もあるだろうけど、見に来てくれた人たちの笑顔や拍手は、間違いなくその場に居た多くの人に本物の幸せを与えただろう。
そして最初のサーカスを楽しんだ人々の口コミを通じて、次第にメンバーと観客も開催回数もドンドン増え「グレイテスト・ファニーショウ」が、混沌世界最大のサーカスになる日も、アメリカン・ドリームを実現するかもしれないという希望も、日に日に現実味を増していった。
「ありがとう。君達には本当に感謝しているよ。約束の報酬だ、受け取ってくれ」
サーカスの収益も順調に黒字になり、ヴィオレットから決して少なくない報酬を受け取る。
「最近、SNSでも話題だよ。ニャカデミー賞を貰うのも時間の問題だってね」
「ところでサーカスも大きくなってきたし、私はこれからナイアル・オブ・パラダイスの全てを巡業しようと思うんだ。そうしたらもっともっと面白くて個性的な仲間や価値観が集まり、名実ともにファニーショウは混沌世界を象徴する最大のサーカスになれるだろう」
「さて、君達はこれからどうするかな?」
どうしようか。十分楽しませてもらって、やるべき事もやったから、そろそろ新たな探索を選んでもいいし、サーカスのメンバーとして、巡業しながら世界探索するのも面白そうだ。あるいは…
「それともサーカスを主導するパートナーになってくれるかい?儲けは7%出そう」
おいおい、冗談だろ?18%が妥当だ。
「細かいなキミは」
15!
「8!」
12!
「いや、9だね」
10!「10!」
ふふッ…
「いこうか、新しい世界へ」
Illustrated by 接続設定 価値観の衝突の嵐の中で、強い個性の色が溢れる、虹の橋をかけられるんじゃないかって!
混沌世界最大のサーカスを目指し、日々路上でパフォーマンスを行っているストリート・アーティスト。主にスティックなどを使用するジャグリングの技術を得意とするが、マネジメント能力やマーケティング能力を兼ね備えた、イノベーター。