空を裂く一筋のライン。
ここはテキサス、ジョンソン宇宙センターがあるヒューストンだ。
打ち上げのロケット雲が浮かんでいたって、何もおかしくはない。
――ただしそれは、雲が宇宙に向かって昇っているならの話だ。
あのラインは、落ちてきている。つまり、地上へ向かっている。黒い煙を吐き出しながら、隕石よろしく落下しているのだ。
やばい。空気を切り裂く音が聞こえる。近い。何が落ちてきているのか、目で確認できる距離だ。燃えている。間もなく地面に衝突する。
あ、死んだな。逃げる暇もなく、轟音が鳴り響いた。衝撃で風が巻き起こる。この距離は洒落にならない。意識が遠のく。
……しばらくの静寂。パニックを起こしていた脳みそが、ゆっくりと平常運転に戻ってきた。幸運なことに、体は無事なようだ。周囲を確認しようと、うっすら目を開ける。
砂煙の中、爆心地には影が見えた。
目を凝らす。砂煙が晴れてきた。影の正体は、鉄の塊だった。
本当に隕石が?いや、等身大の隕石なんて聞いたことがない。よくこれだけの被害で済んだものだ。
それにしても、あの塊は上空で燃えていた。あの燃え方は、分子が激しくぶつかり合った結果ではない。冷静になって思い返してみれば、地面に向かってジェット噴射をしていた気がする。
つまり、この塊は。
「チェックチェック、ウィーンシュウウウウウン」
何か聞こえる。爆心地から。
「ウィーンガシャンウィーン。着地成功、異常なし。空気中の成分を分析、ピピッ。活動に問題ないことを確認。ウィーンガガガ、異空間エネルギー観測開始、ピピピピピピピ、測定不能、測定不能」
声が聞こえる。鉄の塊から。
「生体エネルギーを感知、キュピピーン。そこの君」
こちらに声が飛んできた。私の他に人影はない。まさかとは思うが、話しかけているのか、私に。
「ガソリンを持っていないかな。もしくは、ガソリンスタンドでもいい。近くにないかな?」
そこにいたのは、人型をした人ではない何かだった。宇宙人だろうか。いや、宇宙人は鉄製じゃないはずだ。目の前に立つ人型は、体の半分以上が明らかに金属だとわかる成分で出来ている。
「君は耳が不自由なのか?それとも何か意味があって黙っているのか?あいにく私は、皮肉や遠回しな言い方というものに不自由でね。率直に発言してもらえると助かる。ガソリンを持ってる?イエス オア ノー?」
高所からの落下に耐える機構。
「ガソリンスタンドは?」
鉄で出来た喋る人型。
「まったく、着地でエネルギーを大方消費してしまってね、ピピピピ、エネルギー残量13%」
つまりそれは。
「ところで、ここはどこだい?君、知ってる?」
ロボット?
「ピピーガガガ。なるほど、私は迷い込んだ訳だ、この世界に」
私はこの混沌の楽園について、分かる範囲で説明をした。最も、私が理解していることなんて、何一つないのかもしれない。
「なかなか愉快な世界じゃないか。様々な粒子が混沌と満ち溢れている」
さっきから何を言っているのか、私にはさっぱりだ。少なくとも、敵意はないようだが。
「話は戻るが、私は今ガソリンを欲していてね。この世界にもあるだろう?化石燃料だよ、まさか存在しないのか?」
目と鼻の先に、ガソリンスタンドがあったはずだ。
「そいつは助かる。どうだい?食事がてら、この世界についてもっと教えてくれないか。どうして私がここに来たのか、あるいは誰かが私を呼んだのか、それを知りたいんだ」
私の返答を待たずして、つかつかと歩き出してしまった。ずいぶんマイペースなロボット(仮)だ。が、突然立ち止まる。
「ああ、なんてことだ。ここにも奴がいるのか」
ぎぎぎぎぎ。金属が擦りあう嫌な音が聞こえてくる。ぞわぞわと蠢くあれは、あのおぞましい物体は、いったい何だ。
「メタモルフォーマーだ。私を狙ってる。この頭に埋め込まれた、高性能AIチップが欲しいらしい。何してる、逃げるぞ!」
ガソリンスタンドに停めてあった車が、変形した。そう、変形したのだ。車の原型を留めていない、別の何かに。
「急げ!」
空からやってきた鉄分たっぷりの隕石が、人型のロボットだったのだ。車が変形したって、今更驚かない。が、しかし。
「奴は私と同類だ、ガソリンが主食でね。大きな違いとして、私の方が遥かに頭が良い。そして奴は、人に危害を及ぼす」
襲い掛かってくるというのなら、話は別だ。全長5メートルの機械が、こちらに向かっている。明らかな敵意を持って。
「戦闘力測定開始、ピピピピピピピ、脅威度:テリブル。奴には勝てない、非常に強力で凶暴な連中だ。戦闘以外の方法で機能を停止させねば。この近くに強力な電磁パルスを発生させる機械はないか?」
ここはテキサス、ヒューストンだ。
「だから何だ。回りくどい言い方はよしてくれ」
ジョンソン宇宙センターがある、そこになら。
「オーライ、向かうぞ!そして奴を止めるんだ!おっと、申し遅れたな。私はNON(エヌオーエヌ)式探索用ロボット、コードネームはダークレーだ。束の間のパートナーだが、よろしく頼む」
巻き込まれた身としては不服だが、共同戦線が張られたらしい。とにかく今は、ここを切り抜けよう。
探索者はテキサスのヒューストンに来訪中、高性能AIを積んだロボットの出現に出くわす。さらに、メタモルフォーマーが襲い掛かってくる。
メタモルフォーマーは非常に強力なエネミーだ。戦闘しても勝ち目はない。近くの車を拝借して『カーチェイス』を行おう。
5ラウンド分走り切れば、宇宙センターに到着する。その間、メタモルフォーマーは常に探索者と同じ速度でぴったりくっついてくるが、探索者から何らかのダメージや技能を受けた場合は、その直後だけ攻撃を仕掛けてこない。
『カーチェイス』に書かれている、機動(ラム攻撃や急ハンドル)を駆使して、メタモルフォーマーをやり過ごしながら宇宙センターを目指そう。
メタモルフォーマーを始末した後、同じく機能を停止したダークレーをどうするかによって、報酬が変わる。
彼を分解して頭を開けば「高性能AI」が手に入る。これを機械に取り付ければ、その機械は人格を持つ。取り付けた主人の命令には必ず従う。その場合、ダークレーの記憶は消去される。
彼を助ければ、ダークレーの提案で、新たにダークレーが仲間となる。ダークレーとの関係は、この世界に呼ばれた理由を探すための『協力関係』だ。感情は何でも構わない。
けたたましい作動音が聞こえる。今頃、荷電粒子が荒れ狂い、強力な電磁パルスをアンテナから発生させていることだろう。
その証拠に、すぐそこまで接近していたメタモルフォーマーが、機能を停止している。
「よくやった。君の勇気には感服した、心から礼を言う。そして、巻き込んでしまってすまなかった」
どうやら、作戦は成功したようだ。
「今の内だ、奴に止めを刺してくれ。それともう一つ。私もこの電磁パルスの影響で、間もなく機能を停止する。その後、私のことをどうするかは……君に委ねることにしよう」
そう言うと、彼は立ったまま動かなくなった。
空からやってきたおかしなロボット。
彼は人類の味方なのか、はたまた敵なのか。
メタモルフォーマーを完膚なきまでに始末した後、私は彼のことを――
Illustrated by 接続設定 束の間のパートナーだが、よろしく頼む
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