――地平線を遮るものはなにもない。
見渡す限り、荒れた大地が広がっている。
乾いた空気から感じる味は、少女が知っている幻想郷のいずれの場所とも一致しない。
彼女が暮らす博麗神社、
山を下った先の小さな人里、
あるいは霧の湖に面した紅魔館、
あるいは天界、
あるいは地底。
小さくか弱い日本の原風景はどこにもない。
「――っと、一体どれくらい倒れていたのかしら……?」
紅白の巫女衣装は砂にまみれ、その鮮やかな色合を減じている。
「新しい異変? 全く、休む暇もないとはこのことね」
そう、ひとりごちた彼女の声に応える者はいない。
「……」
そのまま、しばらく彼女はどこを見るともなく、立ち尽くしていた。
「おかしいわね、こういうときはそろそろ紫が出てきて訳知り顔に行く宛を示してくれるものだけれど」
やはりと言うべきか、それに応える声はなく、スキマ妖怪が姿を現す気配もない。
「ま、そんなこともあるでしょ。少し移動してみましょうか。見晴らしは申し分ないし、上から少し眺めればきっと人里も見つかるわよね」
決断は早かった。それが彼女にとって何か良い方向に働いた訳では一切ないが。砂埃を軽く叩いてから、彼女は飛び上がった
――まぁ、主観的には飛び上がったつもりだった。
「ぶっ――」
傍目には砂地に顔からダイブした結果になったが。
「えっ……? えっ……!?」
三度、飛翔を試みるが、ぴょんぴょんする少女の姿が足元の砂の窪みを少し広げただけだった。
「と、ととと、飛べない!?」
では歩くか? いや、もちろん少しくらいは歩けるが、360度どこを見渡しても地平線しか見えない。否、トゲの付いたなんだか乾燥に強そうな植物とか、風に吹かれるままころころ転がる枯れ草の玉なんかは見つかるけど、そんなものがこの状況をなんとかしてくれるとは思えない。
「嘘っそだぁ……」
しばし途方に暮れていると、急に空腹が意識されてくる。
「うぅ……、最後に何か食べたのはいつなのかしら……。食べ物、なんてものがこんな砂だらけの場所にある訳……、――桃! そうだ、天界の桃! 天子(アイツ)から奪った(もらった)桃が確かどこかに……!」
彼女が巫女服のかくしを探ると果たして、そこにはパーフェクトにフリーズドライされた天界の桃があった。
「あの不良天人め!!!」
完全に八つ当たりだ。乾き切った桃は投げ捨てられて音もなく地面に落ちた。
「あっ、ヤバイ……。意識が朦朧としてきた……。」
――ばたり。
結局の所、少女は再び倒れることとなった。誰か、通り掛かって彼女を助け起こす不運な人間がいればいいのだが……。
少女行倒中……
探索者は広大な荒野から行き倒れている博麗霊夢を見つけ出し、町へと連れて行ってやる必要がある。
一通りの説明が終われば、町の住人たちの言う怪物が再び町を襲撃する。霊夢と住人たちはこれを撃退し、最後に見込みがあると言われた探索者は以降霊夢と行動を共にすることになる。
また、博麗霊夢と会話した探索者は<幻想郷知識>技能が5%上昇する。
俄に外が騒がしくなる。バーガーショップの壁、ガラス窓、天井までもが吹き飛ばされ、彼女が最後の一口に取っておいたハンバーガーも、コカ・コーラもどこかへ行ってしまった。ついでにそれを見て零れた少女の涙も一緒にどこかへ飛んでいった。
店内を埋めていたうるさい客たちは我先にと逃げ出している。そんな彼らを意に介することもなく、少女はゆらりと、ゾンビー映画だったら監督から一発OKを貰えそうな動きで立ち上がった。
「!? おい嬢ちゃん、何やってるんだ! 俺たちも逃げるぞ!!」
親切な店主が呼びかけ、巫女服から伸びた腕を掴むが、少女は微動だにしなかった。
「おい!」
「……ないわ」
「嬢ちゃん? なんだって!?」
悲鳴、怒号、物が壊れる音、うるさい。聞こえなかったのならしょうがない。もう一度言ってやろう。
「食べ物を粗末にするヤツは許せない、って言ったのよ!」
「――そうは言うがな、嬢ちゃん。さっき自分で言ってた様に不思議な力は使えないんだろう? だったら無理だ、やっぱり逃げよう!」
少女の気迫に、店主は一瞬たじろいだが、それでもなお人々の逃げていく先を指して叫んだ。
「あぁ……、あれね? 気の所為か、少しお腹が空いていただけだったわ」
舞い上がっていた埃を吹き飛ばし、少女は飛翔した。
4階建てくらいの高さのソレを超え、見下ろしてみると確かに聞いた通り幻想入りした物ばかりが集まった集合体のようだ。――ブラウン管、蒸気機関車、スペースシャトルなんてものまでひっ付いている。怪物は無事少女を認識したようだ。大玉、小玉、楔弾にクナイ弾、銃弾にレーザー、無尽蔵に吐き出されるそれら全てが少女に向けられた。
「さぁて、飛べるようになったのは良いものの、スペルカードはないままだしどうしたもんかしらね……」
一方地上では。
「……マジかよ、てっきりヨタだと思っていたんだがな……」
無論のこと、この時代においても人が道具に頼らず空を飛ぶ、なんてことはあり得ない。そんなことができるのは、魔女か、インディアンどもの司祭か……。
「いや、巫女って言っていたっけか……」
異形の怪物と対峙する奇妙な衣装の少女の姿には、いっそ神々しささえあった。だから、地上で起きた変化はそれだけではなかったのだ。
「おい! なんだあれは!?」
「戦っている……のか?」
店主以外にも、逃げ出していた男達が少女に気づき、怪物の放つ弾幕に明るく輝く空を見上げた。少女は悠々と弾幕を躱し、危うくかすったように見えてもすり抜けて(グレイズして)いる。
「おい、何してんだ!?」
一人が、落ちていたライフルを拾い上げて構えた。
走ったせいで荒れた息を一呼吸で整え、照準/射撃/反動を受け止めて/ボルトアクション/空薬莢が宙に舞う/もう一度照準。
ダメージを与えたようには見えないが……。
「は、っはは。おいおいおいロックだな。まじかよ。俺も混ぜてくれ!」
――こんな弾幕にそうそうやられるものではない、だが攻撃手段がない以上、それ以上のことはできない。
「ん? なにかしら?」
不意にそれまでとは違った音が混じり始めた。距離を取って見渡すと、地上で逃げ惑っていた連中が武器を構えて射撃している。あれは、そう月の連中が似たような物を持っていたか。弾幕と言うにはあまりにもお粗末だが、……いや、まぁまぁか?
「って! アンタらスペルカードは!? 宣言してないじゃない!?!?」
少女の叫びは地上に届くことは無かったが、怒ったように両手を振り回す姿だけはしっかりと確認された。
「オラ! テメエら! 巫女様がもっとじゃんじゃん撃てって怒ってるぞ!!」
そうして町を守ろうとする男達の弾幕は一層分厚くなる。
「――! なんなのよアイツら!?」
……しかし、よくよく考えてみると、あの化け物もスペルカードを宣言した様子はなかった。地上の男達もだ。ここが幻想郷じゃないことは明らかで、もっと広くて、確固とした……。
「もしかして、スペルカードルールが無い?」
じゃあ大丈夫? 何をやっても壊れやしない? 全力……、全力で? 絶対避けられない弾幕とか撃っちゃっても良いの?
「いやぁ、博霊の巫女が、それはマズイでしょ……」
けれど大丈夫なのだ、ここは薄いガラス細工のような、神々の愛した幻想郷とは違う。
「そ、それじゃあちょっとだけ、ちょっとだけね? ほら、しょうがないじゃない、アレを止めないとだし」
「え、えいっ」
慣れない感じの小さな声と共に、比喩ではなく、ナイアル・オブ・パラダイスの空が弾幕に埋め尽くされた。
「ちょっと! なんなのよもう! 分かった、分かったわよ!!」
あとはもう一瞬の出来事で、地上に降りてきた霊夢は男達にもみくちゃにされた。
「私も幻想郷を長く空ける訳にはいかないし、さっさと戻るためにもこの世界の異変を解決してあげるわ! アンタとアンタとそれにアンタ! 見どころがあったから付いてきなさい!」
「え? 大丈夫よ! 任せときなさいって! この博麗霊夢は異変解決のスペシャリストなんだから!!」
少女探索中……
Illustrated by 接続設定 この博麗霊夢は異変解決のスペシャリストなんだから!!
博麗神社の素敵な巫女さん。
https://twitter.com/theouls
http://ouls.web.fc2.com/
http://www.pixiv.net/member.php?id=16366804
※本コンテンツは東方Projectの二次創作です