―――‼
オト――サワガス オト。
ナカマ コワガラセル オト。
ハシル ハシル ハシル。
モリ ヲ ヌケ ソウゲン へ デタ。
ヒト ヒヲフクツツ ヲ モッテ ナカマ ツレテク テキ。
ナカマ タスケル――。
バスに揺られボクは景色を眺めていた。近代的な建物と舗装がされた道の先に立つゲートを抜ける。
その先に広がっていたのは一面の緑の海原。その中にまばらに立つ低木。
いわゆるサバナ地方だ。
遠くに見えるのは雪をかぶった青々とした山脈。広大な水がなだらかに流れる河。生い茂るジャングル。
巨大なアメリカ大陸だ。そんな気候もあるかもしれない。しかし、ゲートをくぐるたびに変化する気候だなんて常識では考えられない。
それもそのはず、ここは混沌の世界。通称『パーク』――元は動物園のサファリパークだった場所が混沌の影響で様々な環境の入り交じる巨大な動物公園となったのだ。
「どう、パークにはじめて来た感想は?」
前方の席に座っていたガイドさんがボクの方に振り返って聞いてきた。(本来はここの研究員でバスガイドさんではないが、今回は厚意でガイド役を買って出てくれた)
「凄いですね。こんなに目まぐるしく気候が変わるとはおもいませんでした」
「そうよね。私たちですら完全には把握できてない所もあるくらいだし」
「あとは……パークの動物たちが見られれば」
「と言っている傍からよ。ほら、あそこ、見て」
ガイドさんの指さした先にはシカのような動物たちが群れになっていた。
「インパラよ。餌を探してサバナを放浪するの」
ボクらに気が付いたのかインパラたちはその場から跳ねるようにして走り去っていく。
「すごい跳躍力でしょ。10メートルくらいを一跳びだから私たちじゃぁ、追いつかないわね」
「えぇ、あっ! あっちにもいますね」
「あぁ、あれはトムソンガゼルよ。インパラよりも一回り小さくてお腹の所に特徴的なラインが入ってるでしょ?」
ガイドさんは自分の脇あたりに指で「この辺りよ」と線を引く。
「本当だ」
それからボクはガイドさんとともに沢山の動物を見て回った。
「どう、パークにはじめて来た感想は?」
ガイドさんは再びボクに同じ質問をした。
「えぇ、良いですね。最高じゃないですか」
ボクはどんどんこのパークに惹かれていっていた。
そんな時だった、耳をつんざくような破裂音が聞こえたのは……。
「今の音?」
「えぇ、銃声……かもしれないわね。今日は私たち以外の調査班は居ないはず……」
「行きましょう」
ボクらは音のした方へとバスを急がせた。
サバナを走っていく。そしてその先(双眼鏡の向こう)にジープを発見した。心配していた事が当たってしまったようだ。
「やっぱり、密猟者みたいね」
ガイドさんの顔が曇る。
傍までやってくるとジープが横転していた。おそらく密猟者たちの車両だろうがなぜあんな風になっているのか。そんな疑問が頭をよぎる。
「見て、あそこに誰か倒れてるわ」
ガイドさんの指さした方向には一頭……いや一人の白い少女が倒れていた。ボクらは車を降りて駆け寄る。
「あぁ、この子はリオンナね。白ライオンのデミヒューマンよ」
ガイドさんは少女を一目見て名前を呼ぶ。
デミヒューマン――混沌によって発生した人と別の何かの相を持つ存在。
倒れた少女のしなやかな四肢には健康的に筋肉がついており。ボサボサの髪の中から猫を思わせる獣の耳が飛び出ている。そして尻尾も生えている。白く光りの加減では金色にも見えるボサボサな髪の毛。いっそファッションなのかと思うほど跳ねているがなんだかその姿は威厳に溢れて見えた。
ボクも聞いた事はあった。
そしてこのパークに居るとも説明されていたが……。
はじめて見たパークの動物由来のデミヒューマンはとても綺麗だった。
「お願い手伝って」
ボクはガイドさんと一緒にリオンナを近くの木陰まで運ぶ、そして渡されたタグリーダーで少女のタグを読み取る。動物由来のデミヒューマンたちには動物園時代の名残としてタグが埋められていた。表示されたのはタテガミが立派なホワイトライオン。どうやらガイドさんの記憶に間違いはなかったようだ。
「あれ、オスのライオンですよね? じゃぁこの子は男の子? 女の子?」
「あぁ、それはね。パーク内でデミヒューマン化した個体は何故だがオスでも女の子の姿に変わるのよね」
傷の手当をしながらガイドさんは小首をかしげる。どうやらリオンナの傷は浅く、麻酔か何かで眠っているだけのようだった。ガイドさんの表情も少し和らぐ。
「しかし、何があったんでしょう。密猟……者も見当たらないようですが」
ボクは倒れたジープの荷台を覗く。あるのはひしゃげた檻(何かよほど強い力がかかったのだろう)がいくつかあるだけで人も動物の気配も無い。後部座席には食料や荷物がそのまま残っていた。
「密猟って多いんですか?」
「そうね。このパークは広大故に全てを監視できているわけではないのよ。だから時折、密猟者が入ってくる」
ガイドさんの話では、このパーク設立前には企業や国の研究機関などが、この混沌の土地を利用しようと小競り合いが起きていたらしい。なんとかもともとの動物園とガイドさんたちの研究機関が動物を守るためのパークとして成り立たせたが、それでもこの地の利権を狙うものは多い。そして密猟者たちはこの特殊な環境下の動物たちを狙う。
「彼ら、密猟者が狙っているのはこの子たち……動物由来のデミヒューマンなのよ」
彼女たちは元が動物。でも混沌の影響でヒトの姿を取っている。だから動物保護と人権保護との間で議論が絶えないそうだ。その隙を狙って密猟者たちは商品として「ヒト型の動物」を売るのだ。「人間って業が深いわね」とガイドさんは少し悲しそうに笑って見せた。
「あら、リオンナ。目を覚ましたのね」
リオンナはとっさに起き上がると警戒し唸り声をあげた。
ガイドさんが「大丈夫よ。私、わかる?」と手を差し出す。
警戒していたリオンナだったが匂いを覚えていたのか。やがて警戒を解き、ガイドさんの足元にじゃれつくように頭をこすりつけた。
「ねぇ、リオンナ。何があったの?」
ガイドさんはリオンナの髪の毛(タテガミか?)を優しくなでる。
「ナカマ ツレテカレタ」
「この子、しゃべれるんですね」
「えぇ、私たちに触れあった子たちは少しくらいなら会話できるわ」
ゆっくりとリオンナから話を聞き出してみると、やはり密猟者たちがここで狩りをしていたらしい。リオンナはそれを追いかけたが麻酔銃で撃たれ倒れていたようだ。
「アレ モウヒトツ イル ナカマ タスケル」
「もう一台、車があったのね……私、無線で連絡してくるわね」
ガイドさんはバスの中へと入っていく。ガイドさんが離れるとリオンナはすぐさま動こうとする。しかし、このまま行かせるわけにもいかずボクはなんとか引き留める。
「ナカマ タスケル」
「分かったよ。ボクも手伝うから、おとなしくしていてくれ」
「マタ アレ クルマエニ イク!」
「ん? アレってなんだ」
リオンナの体が震えたように感じボクは嫌な予感に苛まれた。そう言えば、まだジープが横転した理由を聞いていない。
ぬっと突然、ボクたちの頭上に影が差した。
雲が日を遮ったのではない。
そこには何か『巨大なもの』が居た。
「あぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
誰の声だろうか叫び声がうるさい。
その巨大なものの無数の足が伸びて地面に触れると、そこにあった草は枯れ一気に赤茶けた土へと変わる。周囲を見渡せば今まで草原だったはずの場所がいまや荒れ果てた砂地へと変化していた。
それはこのパークの環境を「作り変えるもの」……人の常識を超えた何か。
その足が振るわれ地面をえぐる。地面は砕け大きな亀裂が入る。
突風。
そして転がっていくジープと「ボクたち」。
荒れ狂う風の中、ボクはリオンナを抱き寄せそして意識を失った。
ボクがくすぐったさに目を覚ますと、息がかかるほどの間近にリオンナの顔があった。
目星に成功したらリオンナに舐められていた事がわかるかもしれないし、わからないかもしれない。とか言う冗談は置いておくとしてボクとリオンナは谷底に落ちていた。
傍にはジープの残骸があったが、バスやガイドさんの姿は無い。困ったことにここからはサバイバルのようだ。
「ナカマ サガス」
リオンナはボクよりよほどタフだ。流石は自然の中で暮らしてきただけある。
なんとかパークの外へ出ないと……、それにリオンナの仲間も探してやらないとだし……頭を悩ます事はいっぱいでため息が出る。
こうしてボクらの冒険ははじまった。
探索者はガイド役をかって出てくれた研究者のバスに便乗し、パークを見て回っていると傷ついたデミヒューマンの少女・リオンナと出会う。リオンナは密猟者によって連れ去られた仲間たちを助けたいと言い、探索者たちはそれを手助けしようと決めた矢先。パークの落とし子(便宜上の呼称)が現れ、谷底へと吹き飛ばされてしまう。ガイドさんともはぐれ、わずかな荷物と食料を頼りに探索者はリオンナとともにパークを冒険することになる。
無事、リオンナの仲間を救いパークへと出ることでリオンナやパーク内のデミヒューマンらからの「信頼」を得る。もしも再び「パーク」内で困ることがあれば助けてもらえるだろう。また密猟者を捕まえて戻った場合はガイドさんら経由で報酬を得る。
「良かった。無事だったんですね」
「はい。みんなに助けてもらいました」
ボクの脳裏によみがえる数々の冒険の記憶。ともに協力し合った仲間たちの顔。きっと忘れない。
「それに、リオンナとも随分仲良くなれたんですね」
「え?」
ガイドさんの笑みを見てボクは振り返る。するとそこにはリオンナがちょこんと座っていた。
どうやらボクの冒険はまだ終わらないらしい。
Illustrated by 接続設定 ナカマ タスケル
パーク内部のサバナおよびジャングルの長となっている動物由来のデミヒューマン。より野生的な側面があるため人よりも獣のように四足で走り、爪や牙も獣のそれと同様の効果を発揮する。仲間想いで王者としての風格も持つ。パーク内の密猟者など敵対的な人間から仲間を守るためパークの広い地域に目を光らせている。人間の中にはガイドさんらのように友好的な存在も居ると分かっており、信頼関係が結ばれればわりと従順である。
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※本コンテンツはけものフレンズの二次創作です