ボシュ、という気の抜けるような音と共に、砲弾を打ち込まれた仲間たちの戦車から白旗が上がった。

《大洗学園、八九式走行不能!》

《大洗学園、38(t)走行不能!》

走行不能になった戦車が放送で読み上げられ、スクリーン上に映る戦車の名前にバツ印がつけられる。
通信機越しには、撃破された仲間達からの謝罪の言葉が聞こえてきていた。

私たちの通う大洗女子高等学校が廃艦の危機を脱してしばらくが経ったある日。私たちは前々から付き合いのあった聖グロリアーナ女学院から連絡を受け、練習試合に臨んでいた。
滑り出しは快調だったものの、やはり強豪たりうる聖グロリアーナをそう簡単にくだせるはずもなく、また相手もどうやら私たちの戦術パターンを分析してきたようで、私たちは徐々に追い込まれていっていた。
そしてつい先ほど、私たちの仲間がまた2輌走行不能に追い込まれてしまったのだ。

「どうするの、みぽりん!? これで残ってるの私たちとレオポンチームだけになっちゃったよ!?」

通信手の武部沙織さんが、焦った表情で私……西住みほに指示を仰いでくる。

「沙織さん、レオポンさんに繋いでください! レオポンさん、こちらあんこう、そちらの状況はどうですか?」

《こちらレオポン! 2輌相手になんとか耐えてるけどそこまで長くはもたないかもー! なんとか合流出来ないかなあ!?》

戦況はこちらの圧倒的な劣勢だが、しかし勝機はまだ残されている。
こちらが残り2輌に対し、相手は残り4輌。レオポンチームが2輌を抑えていて、今私たちの後ろに1輌が追随している。
相手の残り1輌の居場所さえ分かれば……。

「分かりました、幸いそこまで距離は離れてないみたいですし、後ろから追ってきてる相手をいなしつつ最短ルートでそちらに向かい……」
「西住さん、挟まれたぞ!」

操縦手の冷泉麻子さんの声にハッとして視線をあげると、私たちの進行ルートには相手チームの戦車が立ち塞がっていた。

その直後、前方から放たれ飛んでくる砲弾。
それに合わせるように履帯が唸り、車体が微妙に斜めを向く。
弾丸が右側のシュルツェンを巻き込みながら背後の建物へと叩き込まれる。

麻子さんが咄嗟に車体を絶妙にコントロールしてくれたおかげで、その弾丸は車体を擦るだけに留まったけれど、今の状況は非常にまずい。前と後ろを塞がれた以上、どちらかを撃破して強行突破するかもしくは……。
そう思考の片隅で考えたながら周囲をぐるりと見回す。

……見つけた。

「麻子さん、そこの路地に入ってください! 華さん、曲がり角に入る直前に牽制で一発、その後可能な限り連続で撃ち続けてください! 優花里さんは可能な限り装填急いで! ここは一本道で道も細い上にやや距離があります、相手に後ろを突かれたらこちらの負けです!」
「車体幅ギリギリだな、左側のシュルツェン剥がれるぞ」
「了解しました」
「了解です!」

麻子さんの暗黙の了解。それに続いて砲手の五十鈴華さんと装填手の秋山優花里さんの了解の声が聞こえてくる。
ズン、と身体に響く砲撃音。直後、金属が擦れる音と共にシュルツェンが嫌な音と共に剥離される。
それから断続的に放つ砲撃の音と振動。

ハッチから上体を出して、一度後ろを確認。どうやらまだ相手は路地には入ってきてないようだった。
……これで4輌の位置は把握した。あとはレオポンチームと合流すればまた勝機はある。

ほっと息を吐き、前を向き……そして私の視界に飛び込んできたのは。

「……え?」
路地の中ほどに停車し、こちらへと砲塔を向ける戦車だった。

「みぽりん、危ない!?」
「西住殿!!」

思考が凍りついていた私を、沙織さんと優花里さんが車体に引き摺り込む。
「全員、衝撃に備えろ! 撃ち込まれるぞ!」
血相を変えた麻子さんの叫びが車内に響き、そして直後に車内を襲った強い衝撃に、私たちはそのまま意識を飛ばしてしまったのだった。

鈍い頭痛に苛まれながら目を覚ました私の目に飛び込んできたのは、煤まみれになりながら呻くチームメンバーの姿だった。

「沙織さん、華さん、優花里さん、麻子さん! 大丈夫ですか!?」

目を覚ましてこちらに応えてくれるメンバーたち。どうやら大きな怪我もないようで安心する。戦車道連盟指定の特殊カーボンの装甲材の名は伊達ではないのだと再認識する。

「うーん、やられちゃいましたねえ。それにしてもあの戦車、どこの戦車でしょう。聖グロのではなさそうでしたが……」
「私にもちょっと。それよりもあとはレオポンさんに頼るしかありませんね……」
「うん。沙織さん、レオポンさんチームに通信を繋げてくれますか?」
「あ、うん、分かった!」

優花里さんと華さんの話を聞いて、沙織さんに再び回線を開けてもらう。ひとまず撃破された以上、一言だけでも伝えようと思ったのだけれど。

「……あれ、繋がらない……」

沙織さんから返ってきたのは、そんな返答だった。

「通信機壊れちゃったんですかね?」
「計器は動いてるんだけどなぁ……なんなのよもーやだー!」

優花里さんの言葉に沙織さんが嘆き、そんないつも通りの沙織さんの様子に華さんと優花里さんが笑い。いつしか私も釣られて笑っていた。
ひとしきり皆で笑ったところで異常に気付く。麻子さんの様子が変だ。

「麻子さん……?」

ゆっくりとこちらを振り向いた麻子さんの表情は、恐怖と困惑、そして混乱に塗り潰されていた。

「麻子、どうしたの? どこかに頭ぶつけた?」

沙織さんの声にすら反応せず、何か小さな声でブツブツと呟き、そして覚悟を決めた様子で麻子さんが口を開いた。

「皆……外を、見てくれ」

その声に弾かれるようにハッチを開け、外へ顔を出す。同じく顔を出した他のメンバー達が、みるみるうちに麻子さんと同じような表情になるのが見てとれた。……きっと私も同じ表情だったのだろう。
だってそこは。

「……ここは、どこ……?」

先ほどまでいた戦車道の試合会場などではなく。砂煙の舞う広大な荒野だったのだから。

なんとか平静を取り戻した私たちは行動を開始した。

「麻子さん、そっちはどう?」
「エンジンは……もう暫くはもつな。とりあえず、燃料込みで見てある程度は移動できると思う。」
「優花里さん」
「装填、砲塔周りはダメですね。歯車が歪んじゃってるのか、上手く動いてくれません」

まずは私たちの相棒たるⅣ号の状態チェック。

結果としては戦車としては機能しないものの、移動の足としては使えなくはない、ということだった。自衛手段がないのは心許ないものの、未知の土地にいる以上、徒歩以外の移動手段があるのは非常にありがたい。

「華さん、備蓄食料はありました?」
「ええ、3日くらいならもちそうです」

次に食糧。華さんに探してもらったのは、Ⅳ号に積んでいた非常食だった。以前の試合で持ち込んだ食糧がほぼなくて辛い思いをしたことがある。その時の経験から少し多めに積むようにしていたのが功を奏したようだった。

「沙織さん、いけそう?」
「もうちょっと待って、もう少しで掴めそう……!」

最後に沙織さんには、近くとの無線通信を試してもらっていた。改めて調べたところ通信機は沙織さんの見立て通り壊れてはおらず、現在は近くに誰かがいるかもしれない可能性を考慮して、無線による通信で呼びかけをお願いしてもらっていた。

「よし、繋がったよ!」

沙織さんのその声に、私達は急いで通信機のところに集合する。

「さすが沙織さん!」
「ふっふーん、アマチュア無線免許取ってて良かったよ。えーと……『こちらあんこう、こちらあんこう。どうぞ』」

沙織さんの呼びかけに、私達は無言で相手からの応答を待つ。程なくして返事が返ってきたが……その答えは沙織さんを混乱に陥れるには十分過ぎた。

《……Japanese? Ah...maybe an Outsider…? OK, Ankoh, this is……》
「うぇ!? え、英語!? 英語だよこれ!?」
「沙織うるさい」

混乱する沙織さんに一喝し、麻子さんは無線から聞こえてくる声に耳を傾ける。そして英語で相手と何かを話しだした。

「さ、さすが冷泉殿……英語まで完璧です」
「けれど何を言っているのかはサッパリですね」

ひとしきり話し終えると麻子さんは通信を切断して、私たちに話してくれた。

「近くにある酒場のオーナーさんらしい。こちらの状況を伝えたら、迎えをよこしてくれることになった」

その言葉に私たちはホッと胸をなでおろす。
しかし麻子さんは難しい顔を崩さない。

「ただ……相手の名前が、気になる」
「どういうこと?」
「通信相手が名乗った名前がな。少し気にかかるんだ。テキサス・ガイナンと、相手は名乗っていた」
「誰それ」
「沙織が知ってるはずもないか。禁酒法時代の女優の名前だよ」

なによもー、とむくれる沙織さんを片手で宥めながら麻子さんが私の方へと視線を向ける。

「……西住さん。気がついたらここにいたこと、相手の名前が過去の偉人なこと。なんとなくだが私は、私たちが相当厄介な事に巻き込まれている気がするんだ」
その言葉に頷く。

「私もそう思う。皆、気をつけてください」
『はい!!』

そして私達はすぐに知ることになるのだ、この混沌に満ち溢れた異世界『ナイアル・オブ・パラダイス』のことを。

異世界でも戦車、乗ります!

修理サブイベント

マクガフィン
あんこうチーム
目的
Ⅳ号戦車を修理する
障害
Ⅳ号戦車を修理する為の金属の在庫が足りない
舞台
テキサス/サンダンス・スクエア

導入

探索者達は久々にテキサス・ガイナンの経営するサルーンに顔を出している。そこに響く無線機から聞こえる声。ガイナンからの頼みで無線機の発信者を保護するため、探索者達は荒野へと足を運ぶのだった。

障害の導線と解決

どこで
鉱山など
なにを
鉱物資源
どうすべきか
集める。保護した少女らと共に回収してきた壊れたⅣ号戦車。なんの因果かふと気紛れに現れた「意思を持った動く人形」がいたくそのⅣ号戦車を気に入り、修理をしてくれるようだ。しかし「意思を持った動く人形」曰く、修理は可能だが、それに必要な金属が足りないとのこと。その金属は戦車ではよく使われているもので、米軍基地「ブリス砦」における軍事拡張準備の為にアメリカ全土において品薄になっていることをガイナンが教えてくれるだろう(製作者注:このシナリオはメインシナリオ【激突!トランプウォール】よりも前に行うことを想定している)。
探索者たちは戦車の修理に必要な鉱物を『市場に頼らない手段で』手に入れる必要がある。それは採掘かもしれないし、今までに積み重ねてきた人脈を利用した物々交換かもしれない。 入手することが出来るであろうとKP側で判断したPL側からの提案に対して、それに適当な判定を行わせること。3回判定に成功すれば十分量の鉱物が手に入るだろう。

目的の導線と解決

どこで
サンダンス・スクエア
なにを
Ⅳ号戦車
どうすべきか
修理する。「意思を持った動く人形」の指示のもと、戦車を修理する。「意思を持った動く人形」や「あんこうチーム」の助力がある為、<機械修理>の値に30%の補正を加えて判定する。
修理開始時の進行度を4として『Ⅳ号修理進行チャート』を開始する。<機械修理>成功で進行度+1。クリティカルで+2、失敗で-1、ファンブルで-2。進行度が10になると修理完了となる。なお進行度が0になると戦車が修理不可能なレベルにまで破損してしまうので注意すること。その場合、今回のセッションは失敗扱いとなる。

報酬の導線と内容

修理を終えたⅣ号戦車を「あんこうチーム」に引き渡し、報酬を貰う。
無事に戦車の修理ができた場合、車長の西住みほは、探索者たちの力になれることがあったら駆けつけます、と笑顔を浮かべて言ってくれるだろう。
このサブシナリオをクリアしている場合、メインシナリオ【激突!トランプウォール】第三幕の「地上戦」において、あんこうチームが味方として参戦するようになる(ステータスはNPC欄に記載)。

関連NPC
酒と踊るカウガール テキサス・ガイナン
かみさまがつくったもの 意思を持った動く人形
万夫不当の戦車道チーム あんこうチーム

エピローグ

「ここまで運んで来てくれてありがとうございます、ケネディさん」
《いやあ、君たちみたいな若くて可愛い美少女たちの頼みとあっちゃ、断れるはずもないじゃないか!》

通信機越しに聞こえて来る爽やかな、けれど同時に一方で軽そうなその声に苦笑する。
まさかジョン・F・ケネディと直接話をする機会があるなんて思わなかった。
この異世界で過ごして、様々な人と出会い、様々なことがあった。元の世界に戻って、知り合いたちに話そうと思っても、それこそ話しきれないほどの強烈な経験のオンパレードだ。

……けれど今は帰った後のことを考える時じゃないと、自分の意識を切り替える。

高台に停められたⅣ号のハッチを開け、上体を出し、眼下を見下ろす。

「――――ッ」

そこは戦場だった。たった1輌の戦車が、「シャーマン」と「チャーフィー」を相手取り、地上戦を繰り広げている。その戦車に乗っているのは、かつてⅣ号を、私たちを助けてくれた恩人の人たち。
戦車道とは違う、競技でもなんでもない純粋な「戦い」に、一瞬気圧されかけ、必死に気持ちを強く保つ。

「皆、大丈夫?」

ハッチを閉め、完全に整備されたⅣ号の中、いつもの定位置についた皆に声をかける。

「やっぱり怖い、かな……」

そう漏らしたのは沙織さんだった。

「これからやるのって、戦車道じゃないんだよね。本物の、戦争。そう考えるとやっぱり怖いって気持ちは拭えないや……」

そう話す沙織さんの肩はかすかに震えていて、私は今回の選択が間違っていたのではないかと、そう考えてしまう。

「けどね」

そんな私の思いを見透かしたかのように、沙織さんは顔を上げる。目尻に少し涙は浮かんでいるけれど、その瞳は決意に満ちていた。

「私たちを、Ⅳ号を助けてくれた恩人が今困ってる。そしてその困ってることは、私たちの得意分野! なら私たちが手伝わないで、誰が手伝うのよ! みぽりん、だから私は自分の選択を後悔なんてしない! 胸を張って私は私の道(せんしゃみち)を貫くよ!」

「そうですよ、西住殿。全国大会の決勝戦、覚えていますか? うさぎさんチームが川の中で動けなくなった時、西住殿は見捨てることを選ばなかった」
「ええ、それがみほさんの西住流なんでしょう? 仲間を気遣い決して見捨てない、だからこそ私たちはみほさんと一緒に戦車道をやってこれたんです」
「西住さんは、西住さんの道を貫けば良い。私たちはそれに納得した上でここにいる、間違ってたらその時点で言ってるさ。自信を持て、これは『私たちの』選択だ」
「沙織さん……優花里さん……華さん……麻子さん……」

そうだ。私は1人なんかじゃない。大切な仲間たちが一緒にいてくれる。
その事実に胸が熱くなり、目頭が熱くなる。
ぐっと、ジャケットの裾で目を拭い、そして私は口を開いた。

「それでは『鶴の恩返し』作戦を開始します! ――パンツァー、フォー!!!!」

万夫不当の戦車道チーム あんこうチーム

Illustrated by 接続設定 それでは作戦を開始します! ――パンツァー、フォー!

人種
アウトサイダー
職業
学生
拠点
サンダンス・スクエア
性格
援助者/高慢
イデオロギー/これが私の西住流
シナリオ同行中、戦闘中にのみ使用可能。1ラウンドの間味方全員のあらゆる判定に+10%し、与えるダメージに+1D6する。

大洗女子高校2年の西住みほ、五十鈴華、武部沙織、秋山優花里、冷泉麻子から構成される戦車道チーム。
搭乗戦車はⅣ号戦車(H型相当)。側面に描かれたあんこうマークがトレードマーク。
メンバー全員が戦車の操縦において、自身の担当については非常に優れた才覚を有している。
戦車道の練習試合の途中、本来ならば存在しないはずの見知らぬ戦車に撃ち抜かれ、その衝撃から回復した時には「ナイアル・オブ・パラダイス」に迷い込んでいた。
本シナリオ後はそのままサンダンス・スクエアに留まり、各メンバーの長所を活かして生計を立てているようだ。

参考作品
GIRLS und PANZER
主な習得技能
操縦:戦車95%
それ以外にも、キャラ個別で何かしらの技能を設定してみるのも面白いかもしれない。
Ⅳ号戦車(H型相当)
SIZ 75
CON 12
STR 40
DEX 4
耐久40
ダメージボーナス6D6
装甲13
搭乗人数5
主武装
7.5 cm KwK 40
ダメージ8D6
副武装
ラインメタル/マウザー・ヴェルケMG34機関銃
ダメージ2D6+4

あんこうチームが搭乗する戦車。側面に描かれたあんこうがトレードマーク。
常日頃から大切に使われていたため、「意思を持った動く人形」に気に入られることになる。

著 ズンダねこ(敬称略)

https://twitter.com/Zunda_Cat

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※本コンテンツはGIRLS und PANZERの二次創作です