「ダマァス!イ!カバジェーロォス!!ようこそ、紳士淑女の皆様方、そしてカウボーイの諸君!」

ここはニューメキシコ州アルバカーキの「バルーン・フェスタ・パーク」。毎年10月に40年以上の歴史を持つ世界最大の気球の祭典「アルバカーキ国際気球フェスティバル」が開催される広大な広場だ。

本来であれば、10月中旬頃にはとっくに終わっているはずだが、この混沌世界に巻き込まれた多くの人々が興味を持って、どんどん参加しているせいか、祭りは終わるどころか盛り上がる一方で、この分だと11月いっぱいまで、続くかもしれない。

そんな空一面を色とりどりのバルーンが埋め尽くす中であっても、広場には一際注目を集める存在がいた。
「「「ブルファイター!ブルファイター!ブルファイター!」」」

直径30mの円の周囲には頑丈な格子の柵、そしてその柵の外から群がり熱狂する観客達。内側に佇むは、上品なインディゴカラーに、黄色のストライプが入ったスーツの男。光り輝くツノ付き帽子を被り、手には目も覚めんばかりの真紅のマントをひるがえす。

「グラシアス…!グラシアス!おっと、ア・モーレ、セニョリータ!」

ありがとうと、観客に優雅に手を振り、時折投げキッスなどのキザな愛嬌を魅せるその男。

ヒーローにしてエンターテイナー。闘牛士「ブルファイター」は、色とりどりの気球が舞うフェスティバルの只中で、それらをまるで自身の背景にせんばかりのエンターテイメントで、人々を大いに楽しませ、フェスティバルをさらに盛り上げていた。

ブルファイターに多くの人々が熱狂しているのには理由がある。

闘牛の形式は様々だが、少なくとも観客の人々が知る「闘牛」とは、一頭の牛に対して、3~4名の複数の闘牛士が相手をする、複数対一だった。そして次々と牛を突き刺したり、走らせて疲れさせたりして、弱ったところでメインの闘牛士がようやく一対一の戦いを挑むのだが、その頃には牛は疲れ果て、ちょっと可哀想にもなるくらいだ。リアルではあるが、生々しい。

しかし、ブルファイターの闘牛はそうではなかった。

彼の闘牛は一対一だ。いや、一対二だ!いやいや、一対三だ!!話題が話題を集め、観客の熱狂がピークに達する頃には、彼は四頭の牛を一人で相手取っていた。

赤いマントを巧みに使い、回転や跳躍回避は、まるでヒーローのアクション映画のよう。避けながら繰り出される「エストック」の妙技も実に美しく、鮮血を散らす牛は、怒りながらも昂ぶり、その様はまるで戦いを楽しんでいる、観客の目にはそう映った。

こう聞くと、まるでブルファイターが、超人的能力で牛達を華麗に捌いているように聞こえるが、そうではない。はたから見ても、誰から見ても、彼は死と隣り合わせの超緊迫状態。ショーの最中「あっ!!」と、声に出した観客は数知れず。

極限の緊張状態と、優美なる身のこなしの緩和。

これが矢継ぎ早に目に飛び込むから、人々はブルファイターから目が離せない。緊張の汗とドキドキの鼓動とともに強く柵を握り締め、彼に惹きつけられてしまうのだ。

マントをたなびかせ…。襲い来る四頭の牛!
華麗に避け…。突き刺す!華麗に避け…。突き刺す!

そして時折
「マリーカ!疲れたかな?それとも怖気づいてしまったかな?チッチッチ… そんなことはないはずだ。君達はこのショーを楽しんでいる。私もだ。そうそう… わかるだろう?そうだ!来たまえ!!この素晴らしき戦いに決着をつけようじゃないか!」

などと、牛達に対し、まるで長年の良きライバルであったヴィランを挑発するように言うのだ。

極限状態ではあるが、彼には見えている。良きライバル達が、どう動き、どのタイミングで疲れ、そしてどのタイミングで襲い掛かってくるのかが。

そしてそれらを無慈悲に効率を重視して倒すのではなく、牛達の猛ける魂に応え、観客を楽しませるために、戦いを華やかに展開する様は、まさにマスコリーダ(闘牛)であり、マスカレイド(舞踏会)。

そんな彼の闘牛ショーだから、四頭の牛が倒れたとき、人々は緊迫状態からの解放の安堵とともに、ブルファイターのエンターテイメントに盛大なる拍手を送るのだ。

「いやぁ~!はっはっは!盛況、盛況。大人気だねぇブルファイター君。」

ショーの合間。バンバンと肩を叩きながら、愉快豪快に笑うその男は、エンターテイナーハンター「バッファロー・ビル」。かつて西部劇の興行で成功を収めた「ワイルド・ウエスト・ショー」の団長だ。

「まったく団長ったら、彼が居なかったらどうしようもなかったんだから、ちょっとは反省してちょうだい?気球フェスティバルとバッティングしたら、ショーがどうなるかぐらい想像できたでしょう?」

そう釘を刺すのは、団の射撃スターにして、団長の相棒「アニー・オークレイ」。

「わかってるってアニー。でも結果的に彼と出会えて、ショーは大成功!良かったじゃないか。僕はブルファイター君には、感謝しきれないね。」
「とんでもない、セニョール・バッファロー。私こそ、この世界について知ることが出来て、とても助かった。感謝している。」

「まっ、わけもわからず、この世界に飛ばされて?荒野で彷徨うってのは、もはやお決まりのパターンだからな。俺達も対応には慣れたもんさ。」
そしてブルファイターとは違う方向でキザというか、小生意気な若造は、早撃ち天才ガンマン「ビリー・ザ・キッド」。

つまり、こういうことだ。

かつてブルファイターは、スペインの闘牛場で、その個性的な出で立ちと、実力とともに、大人気の闘牛士だった。しかし、ある闘牛との戦いの最中、マントをひるがえした次の瞬間、目の前の景色はスペインの闘牛場から、一瞬にしてニューメキシコの荒野へと早変わりしてしまった。

あてもなくフラフラと彷徨う彼の視線の先に、色とりどりの気球が目に入る。そこに向かうと、盛大な気球を見上げる多くの人々。そして、人々を横目に閑散としたショーを披露する一団。

あとは、なんとなく分かるだろう。状況と事情を把握できたブルファイターは、その見返りとして類まれない才能を発揮し、ショーを大成功に導いたのだ。

「西部劇のショーは、もうありきたりだけど、闘牛のショーは新鮮だったのもあったんじゃない?」
「だなー 最近は娯楽が増えすぎてツライぜえ。そういや団長、よく都合よく闘牛なんて居たな。どうしたんだ?」
「おいおい君達ぃ?僕を誰だと思ってるんだい?バッファロー・ハンター・ビルの名を忘れたとは言わせないよ。」
「マグニフィコ、確かに。私が闘牛士だと伝えてから、ものの一時間足らずで、10頭以上のバッファローを捕まえるなんて、賞賛に値する。」

そんな風に談笑をしていると、突如その空気は激しい雄叫びによって、掻き消される。

「「「ブォオオオオオオオオッ!!!!!!」」」

「な、なんだあ!?」

舞台に視線を向けると、そこには四頭の牛とは比べ物にならないほどの、巨大なバッファローが、いつの間にか現れて暴れ、柵を破壊し、周囲の人々を混乱に陥れていた。

「ヴァヤ、テラ…。こいつは…!」
「なんだぁ!?知り合いの牛か?キザ男!」

「こいつは…私が、この世界に来る直前に戦っていたリーヴァイ…、好敵手だ。だが…!」
巨大なバッファローは、ブルファイターが知るバッファローとは違っていた。まず大きさ、そしてその体は触手が生えたり、変色したり、異様な変化を遂げていたのだ。

「こいつは、キュイレブの仕業だな…。おっと、キュイレブってのは、この世界の脅威のひとつの化け物でね。僕が知る限り、奴に従う動物は異形化してしまったものが多い。」
「解説してる場合!?早くなんとかしないと!」

「当ったり前だ!こいつは俺が相手をする!アニー!おっさん!観客の安全を確保してくれ!!」
「観客の安全を確保するのはお前だビリー!また21歳で死ぬつもりか?怪物は僕に任せておけ。」

そう言いながら、使い込まれたであろう、年季の入った鞭を構えるバッファロー・ビル。

「チッ… 死ぬなよおっさん!行くぞアニー!」「ええ、後で必ずよ団長!」

人々を無事逃がすため、駆け出す二人。

「さて… どうだ?いけるかブルファイター?」
「心配無用… と、言いたいところだが、ペロ・ウン・ポコ・カンサード。」

「ウンポコペロペロ?クソな冗談言えるほど余裕かい?」
「…少々、疲れているのだよ。おや…?」

僕達の前には、巨大な怪物と対峙する、ブルファイターとバッファロー・ビル。
この脅威を解決しようとする意志は、二人も僕達も同じのようだ。

「腕が立つようだね。協力してくれセニョール、セニョリータ。」

「君達は?」

「ほう。」

「エル・ブスカドル(探索者)。」

ブルファイター/コリーダ・デ・トーロス

討伐サブイベント

マクガフィン
ショーに現れた闘牛の怪物
目的
ブルファイター、バッファロー・ビルとともに怪物を倒す
障害
ショーに現れた闘牛の怪物
舞台
ニューメキシコ/バルーン・フェスタ・パーク

導入

ナイアル・オブ・パラダイスで話題になっている、世界最大の気球の祭典「アルバカーキ国際気球フェスティバル」。探索者達のもとにも、この祭典の話題が耳に入る。本書の世界を探索する探索者にとって、特別な理由が無ければ、こんな面白そうな祭典を見に行かない選択は無いだろう。「バルーン・フェスタ・パーク」に向かうと、遠くからでも、色とりどりの気球が空を埋め尽くす様子が見て取れる。現地に辿り着くと、壮観な気球の景色が目の前に広がるが、それ以上に目を惹く「闘牛ショー」の熱狂が目に入る。周囲の人達に話を聞けば、闘牛ヒーロー「ブルファイター」と、彼が披露した技の数々を聞けるだろう。「ブルファイター」は探索者達の目の前で、四頭もの牛を相手取り、無事素晴らしいショーを終える。ショーは暫しの休憩に入るが、すぐに人々のどよめきが広がる。なんと、目の前の何も無い空間が裂け、そこから巨大な異形の闘牛の怪物が現れ、雄叫びとともに暴れだしたのだ。周囲の人々が逃げる中、探索者は闘牛に立ち向かう、ブルファイター、そしてバッファロー・ビルに共闘の依頼をされる。

障害&目的の導線と解決

どこで
ニューメキシコ/バルーン・フェスタ・パーク
なにを
ショーに現れた闘牛の怪物
どうすべきか
ブルファイター、バッファロー・ビルとともに闘牛を倒す。この戦闘は闘牛ショーの体裁によく似ている。ブルファイターとバッファロー・ビルは、暴れる闘牛が気球フェスティバルに訪れた人々の元に向かわないよう、毎回「マタドール」と「ハンティング」という、それぞれの能力を活かして、闘牛の行動を制限することに努める。探索者は、二人の能力を上手に活かしながら、闘牛を倒さなくてはならない。また本シナリオでは、周囲に逃げ惑う人々が居るため、銃や重火器、投擲武器といった、近接武器以外を使用することは推奨しない。(使用しても構わないが、闘牛をテーマとする本シナリオは、近接武器だけで戦った方が楽しめるだろう。)

闘牛の怪物
モンスターページ/ワイルド・ファング 参照
変更点:攻撃手段は「突進」のみで、必ずラウンドの一番最後に行動、耐久力は50とする。

ブルファイター
毎ラウンド「マタドール」を行う。「マタドール」の成功率は50%。成功することで、闘牛の攻撃を引き付けて回避し、無効化することが出来る。失敗した場合1D2をロールする。1であれば引き付けること自体が失敗する。2であれば回避に失敗し、ブルファイターは闘牛からの突進ダメージを負う。ブルファイターと闘牛が行動する前に、探索者が「バンデリジェーロ(闘牛助手)」として、「マタドール」をサポートするための、何らかの技能に成功する度、「マタドール」の成功率を+30%することが出来る。
上記以外の能力値は、モンスターページ/ナイアル・アナキズム 参照

バッファロー・ビル
毎ラウンド「ハンティング」を行う。「ハンティング」の成功率は25%。成功することで、鞭や縄などの道具で闘牛を束縛し、1D3ラウンドの間、闘牛の技能成功率を半分に抑える。この効果は重複する。探索者が「ハンティング」をサポートするために、何らかの技能に成功する度、「ハンティング」の成功率を+20%することが出来る。
上記以外の能力値は、モンスターページ/ザ・マグニフィセント 参照

報酬の導線と内容

無事、闘牛の怪物を倒すことが出来れば、ブルファイターから探索者の勇気と協力に対する賞賛の言葉と、バッファロービルから報酬を貰うことが出来る。

エピローグ

突然の闘牛の怪物の乱入は、闘牛士「ブルファイター」、ハンター「バッファロー・ビル」、その二人に協力した探索者達、そしてビリー・ザ・キッドと、アニー・オークレイが人々を迅速に避難させたことで事なきを得た。

その後、再び闘牛ショーを再開し、ブルファイターは怪物を目の当たりにした人々の恐怖を吹き飛ばすような素晴らしいショーを披露し、探索者達もそれを大いに楽しむことができるだろう。

この混沌世界には、恐ろしい異形の生物がいたるところに存在し、ブルファイターは多くの場所で人々に必要とされるだろう。

バファロー・ビルの一団と興行として人々を楽しませるため各地を巡るのか、あるいは今回の縁で探索者達と行動を共にするのか、はたまた怪傑ゾロなどのヒーロー達とチームを組んで壮大な戦いに臨むのか…

to be continued!!

闘牛士ヒーロー ブルファイター

Illustrated by おかぬ ダマァス!イ!カバジェーロォス!!

人種
アウトサイダー
職業
ヒーロー
拠点
ニューメキシコ/エル・ランチョ・ホテル
性格
挑戦者/色欲
イデオロギー/マタドール
同行時シナリオ中1回だけ、探索者への攻撃を自身に引き付けて回避し、無効化する。
主な習得項目
マタドール、エストック、回避、動物調教など

かつてスペインの闘牛場で、その個性的な出で立ちと、実力とともに、大人気だった闘牛士ヒーローであり、テンターティナー。気高く、美しく、悪を許さず、見る人を楽しませる事がブルファイターの正義。その正体を知る者は多くなく、若者であったり壮年であったり、男性であることが多いが、女性だという証言もあり、代々ブルファイターというヒーローが、受け継ぎ続けられているという噂もある。だが、いつだってそのポリシーとキザな性格、そして卓越した技術は共通している。普段は闘牛ショーの狭き門「マスカレード」として活躍するが、街で悪党が現れた時などは、ヒーローとして、人々を恐怖から守る活動も行っている。

著 おかぬ(敬称略)

https://twitter.com/okanu1020

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