「九龍幽霊七不思議?」。
深夜、とあるオカルトフリークの溜り場。それはスカイプやディスコードのような、通話グループかもしれないし、閉鎖的なチャットや掲示板の一部屋かもしれない。
混沌都市『ナイアル・ネオ・ファンタズマ』では、昼夜問わず奇妙な事件や現象が相次いで、日常茶飯事と化しているが、そんな世界でも、いやそんな世界だからこそ、怪奇好きな変わり者達は、夜な夜なオカルティックな噂に花を咲かせる。
もっとも、そんな変わり者達のことを、この界隈では『探索者』と呼ぶのだが・・・。
「そう、『九龍幽霊七不思議』。この世界に変わった事は沢山あるけど、その中でも最近特に注目を集めている話題なんだ!」
この部屋のオーナー『ハル』は、そう楽しげに話す。
『ハル』と探索者達は、いつの間にか、あるいは何かの出来事をきっかけに出会い、気づいたらこうして毎夜ネットを通じて話すくらいには、仲が良くなっていた。
ここでは各々が見聞きした様々な話を共有して、互いに怖がりあったり、論議考察したり、創作のネタにしたりと、ほど良い盛り上がりのある空間が楽しまれていたが、その中でも『ハル』は探索者達と同じかそれ以上に好奇心旺盛で、あらゆることに首を突っ込んでは、溜り場に土産話を誰よりも多く持ち帰っていた。
「みんな、学校の七不思議は知ってるよね?僕の学校にも、開かずのトイレの幽霊とか、音楽室のピアノの幽霊、体育館でバスケをする頭の無い幽霊、合わせ鏡に現れる幽霊、新聞部の幽霊部員とか色々あるんだけど・・・」
「『九龍幽霊七不思議』ってのは、文字通りこの『ナイアル・ネオ・ファンタズマ』の『九龍(クーロン)』にある七つの幽霊の不思議でさ。この七不思議にノミネートされている幽霊は、その中でも目撃証言も多く、知名度も高い。この世界の怪談の定番になるんじゃないかって噂されてて、民俗学研究の題材としても、様々な大学の注目を集めているんだよ!」
『ハル』が言うには、その七不思議とは以下の七つだ。
一.マンションの首吊り幽霊
二.映画館の劇場霊
三.時計塔の殺人霊
四.風俗街の遊女霊
五.獅子山の赤い幽霊
六.宋王台の幼帝霊
七.九龍城砦の無数の手
「実は僕、学校で新聞部をしててさ。この『九龍幽霊七不思議』を記事にしてみたいと思ってるんだよね、“写真付き”で!」
なんでも、今のところ七不思議は、その知名度こそ高いものの、具体的な証拠や核心を突く情報は、あまり無いらしい。
そこで『ハル』は、自分がこの七不思議の証拠を集め、証言者となり、『九龍幽霊七不思議』を確かなものにしたいというのだ。
・・・と、興奮交じりに、楽しそうに探索者達に語る『ハル』の様子を見れば、これらはとってつけた説明で、単純に面白そうだから!ワクワクするから!という好奇心に突き動かされているのは、心理学を使うまでも無くわかるだろう。
「でも、七つもあるし、危険な幽霊も居るみたいだし、一人じゃ厳しいんだ・・・。」
そ、こ、で
「君達に一緒に行って欲しいんだよ!え?怖いとかじゃなくてさ。だって・・・、だってそれは・・・。」
「面白そうじゃないか!勿論、断るなんてしないよね?だって、君達は『探索者』なんだから!」
探索者達は、『ハル』の話を聞いて様々な反応を示すだろう。
怖がる者、面白がる者、科学的に分析する者、虚勢を張る者、やる気マンマンな者、クールな者、スッと大仏のマスクをかぶる者・・・。
「幽霊だから勿論夜にならないと現れない。時間は深夜0時丁度に、九龍の『尖沙咀駅(チムサーチョイえき)』に集合して、七不思議巡りをしよう。」
「そうだ!ここの溜り場以外で、初めて会う人も居るよね?0時だから、他に人なんてあまり居ないと思うけど、何か目印になる服とかモノを持ってきてくれると助かるよ!」
『ハル』の提案で、各々の探索者は、自分の特徴や服装について語るだろう。
今更だが、探索者同士はすでにお互いの事を知っているかもしれないし、全く初めて会うかもしれない。あるいは、混沌都市はそんなに広くないから、どこかですれ違っているかも・・・。
探索者同士の、それぞれの都合、それぞれの予定の良い日にちが決まれば、いよいよその日の0時に『九龍幽霊七不思議』の探索が始まる。
「あ、もし良かったら『カメラ』を持ってきてね。僕は当然幽霊を撮影するから持って行くけど、みんなも持ってると、撮影の成功率が上がって助かるよ!」
探索者達はネットのオカルトフリークの溜まり場で『ハル』という、オカルト好きの人物と仲良くなっている。そんな折、探索者達は『ハル』から、『九龍幽霊七不思議』を巡る幽霊撮影を提案される。かくして、探索者達は深夜0時丁度に、九龍の『尖沙咀駅(チムサーチョイえき)』に集合して、『ハル』とともに、七不思議巡りを始めることになる。
七不思議巡りを無事全て終えると、後日『ハル』より、新聞とともに「報酬」が届けられる
「いや~!とってもいい写真が撮れたよ。ありがとう、みんな!」
七不思議全てを探索者達とともに巡り終えた『ハル』は、その写真の出来映えに、とても満足そうだ。
「みんなの活躍のおかげで、きっととても面白い『九龍幽霊七不思議』の新聞記事が出来るよ!」
七不思議巡りを『ハル』と同じように楽しんだ者、ガチで怖くてガクブル震えてる者、ヘトヘトのクタクタに疲れている者、クールに気取っている者、探索者達は嬉しそうな『ハル』を見て、様々な反応をするだろうが、きっと今夜の探索と探索者達の活躍は、『ハル』の学校のみならず、一部のオカルトフリーク達の噂や掲示板で、密かな伝説となる・・・ かもしれない。
数日後、今回の七不思議巡りに参加した探索者達の元に、郵送か何かで『九龍幽霊七不思議』の新聞と、今回の報酬と思わしきお礼の品が届く。
探索者達は、深夜の探索を思い出しながら、新聞を眺めながら、あんなこともあったな、こんなこともあったなあと想いを馳せるだろう。
一.マンションの首吊り幽霊
二.映画館の劇場霊
三.時計塔の殺人霊
四.風俗街の遊女霊
五.宋王台の幼帝霊
六.九龍城砦の無数の手
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七.新聞部の幽霊部員
「ん?」
『七.新聞部の幽霊部員』。
送られてきた新聞を何度見直しても、探索者達が巡った七不思議とはひとつだけ違うことが、すぐに気づけるだろう。
どういうことかな?あ、ライオン・ロックのは幽霊じゃなかったから、別のものを持ってきたのかな?
そう察する者もいるかもしれない。
そうでなくとも、新聞を届けてくれた『ハル』に何らかの連絡をとるため、オカルトフリークの溜まり場に顔を出そうとするだろう。
しかし、『ハル』はいつまで経っても、再び溜り場に現れることは無かった。
そして探索者の誰かが、連絡の取れない『ハル』を探すかもしれない。
でもきっと、『ハル』に会えないことは、新聞を見た探索者なら感じ取れることができるだろう。
だって、新聞部の幽霊の記事にも写真は付いている。
そこに写っているのは、探索者達と深夜の七不思議巡りをした『ハル』だったのだから。
Illustrated by 接続設定 面白そうじゃないか!勿論、断るなんてしないよね?
本名 越智満陽太(おちみつはるた)。「越智満高等学校七不思議」以降、継続して越智満シリーズに登場するNPC。好奇心旺盛で何にでも首を突っ込みたがるが、基本的に善良な性格の持ち主。