君たちは旅路の途中、ある町へと辿り着いた。
不慣れな場所だったからか、それともそういう運命にあったのかは定かではないが。
ともかく君達は路地裏をいつの間にか歩いていた。
引き返して表通りを行くべきかと思案し始めたであろう頃に、君達は男達の声を聞いた。穏やかではない、トラブルの予感を十分に感じさせる声色だった。
君達の居た場所からそう遠くないところに、声の主達は居た。数人の男達が、一人の女性を取り囲んでいる。
最初に君たちの目を引いたのは、赤く長い髪。
そして君たちの目を奪ったのは、彼女の深紅の瞳だった。
興奮した様子の男達に囲まれながら、退屈そうな表情を浮かべた女性。顔立ちからして東洋人だろうか、しかしその肌と髪の色はあまり見る組み合わせではなかった。
「場違いだ」そんな印象を受ける。
理由は定かではないが、男達はどうやら彼女に危害を加えようとしているのは間違いない。興奮と熱気と、どこかうつろな焦点の合わない瞳が危険な状況である事を雄弁に物語る。
しかし張り詰めた空気の中、彼女だけが他人事の顔をしている。辺りを包む男達の熱気の中、彼女だけが異質でなんの熱も放っていなかった。
君達と目が合う、息を呑むほどに鮮やかな赤い瞳だ。あれだけ距離があったはずなのに、何故か彼女の瞳が印象に残っている。
数秒見つめ合っていると、不意に彼女の目尻が下がり、口角が微かに上がる。
ああ、彼女は笑ったのだ。
それと同時に君達は思った。
彼女を守らねばならないと。
探索者は各々の目的に従い、この異質で不思議な世界を旅している途中だ。そんな君たちは目的地への途中、とある町へ立ち寄った。そろそろ食事をとるのに良い頃合いだと、探索者は飲食店を探して歩いていると。路地裏から男達が言い争う声が聞こえてくる……。
探索者が望むのであれば、赤毛の東洋人が同行をしてくれるだろう。そうでない場合、彼女は報酬として赤い粉末(価値D)を人数分渡してくれる。独特の香りの粉末で、困ったときに使えば元気が出ると教えてくれる。耐久力を1D3回復する薬品だ。
走り続け、どうにか逃げ切った事を確信した君達は安堵のため息をもらす。
「ありがとう」
流暢な英語で彼女はそう言い、微笑んでいる。どきりとさせるような笑顔だった。多少の苦労の甲斐はあったと感じさせるには十分なほどに。
「お礼をしないとね」
彼女はそう言って少し考えている。
「うん、そうだ。君達が望むなら私を好きに使っていいよ、生憎人に渡すほどの財貨なんてないからね」
にこにこと笑顔を浮かべながら、彼女はそう申し出た。手を貸してくれるという意味だろうか。
「きっと、ヤミツキになるんじゃないかな」
くすりと笑う彼女の瞳は、とても鮮やかな赤だ。吸い込まれそうな、そんな赤だった。
Illustrated by 接続設定 きっと、ヤミツキになるんじゃないかな
現代日本、四国の山中にある旧家に生を受けた彼女を支配していたのは退屈であった。