「もしもし!警察ですか!?スマホから火が噴き出して、電気が燃えて消えちゃったんです!!」
・・・・・・・・・・・・・・
「…はあ?」
そんな意味不明な電話が、警察・消防・役所・電気会社・その他 色々なところで飛び交った。SNSでも飛び交った。最初は何のことかと思ったけど、窓の外を見てみると、いたるところで火事が起きていた。
メラメラと。メラメラと燃え上がる【紫の炎】。
それは火事というにはどこか幻想的で、恐怖を感じるというよりも、一瞬止まってボーっと眺めて見てしまうほどには、蠱惑的な魅力を放った景色だった。
そして同時に、【紫の炎】が燃え上がる場所では、普通の火事で発生するような黒煙は全く無く、その代わりに【紫の炎】が燃えている場所では、一切の人工的な光が見えなかった。
(え… どういうこと どういうこと?)
スマホで【火事・電気・炎・紫】と、適当なワードを入れて、咄嗟に検索する。
検索するが…
プツッ
「え!?…あれ?ねぇちょっと!」
どれだけタップしても、電源を長押ししても、スマホの画面は急に真っ黒になって、ウンともスンともいわない。検索中に見えた単語の中で、【炎が電気を燃やす】なんて言葉がいくつか見えたけど…。
(炎が電気を燃やすって…)
再び窓の外に視界を戻し、しばし眺める。
消防車のサイレンや慌ただしい喧騒が聞こえる中、人々に全く関心が無いかのように、【紫の炎】は次々と他の建物に燃え移り広がっていく。
広がっていきながら… 建物の電気が次々と消えていく。まるで、【紫の炎】の巨大な怪物が、街をゆっくり移動しながら、建物の電気を食べているかのように。
「炎が電気を燃やすって…。」
(そういうことなんだ…。)
それがどういう仕組みかは分からないけれど、目の前に現れたその光景を直感で理解できてしまった。きっと私のスマホが使えなくなったのも、あの炎の影響に違いない。(ただの電池切れかもしれないけれど、今はわからないことだ。)
「電脳炎上?」
先日の【紫の炎】の火災。通常の火災の何倍もかかって無事消火された事件の数日後、その後もしばしば【紫の炎】の火災は起こり、その原因が新聞やニュースで出回るようになっていた。
「そうそう。なんか電話とかネットとか… テレビとか信号機からもあるみたいなんだけど、そこから電気を燃やす電気の炎が噴き出して、電気を燃やし尽くして、電気を消しちゃうんだって。」
(ん?)
ちょっと言ってる意味がイマイチわからなくて、視線を上の方に向けてしまう。
「【電気】を燃やす【電気の炎】なの?」
「そう、【電気】を燃やす【電気の炎】。普通は電気に炎を近づけても、電気は燃えない?… ていうか、火は電気を通すんだっけ?とにかく、電気が紙みたいに燃えるなんてならないじゃん?でも、【電気の炎】は電気を紙みたいに燃やしちゃうの。それで、私達が手で触れても、火傷とかはしないんだって。不思議ね。」
【電気】を燃やす【電気の炎】って、それ化学的にはどういうことが起きてるんだろう…?ていうか火傷しないってことは、普通の炎と違って、物体は燃やさないってこと?
「【電気の炎】は、普通の紙は燃やさないの?」
「うん。普通の炎みたいな、モノを燃やす現象は起こらないみたい。【電気】は燃やして消しちゃうけど。」
…それって【電気の炎】なんてのが視覚的に見えてるけど、結局起きているのはつまるところただの停電では…?
「ただの停電っていうのは、私も思ったけどさ。どうもちょっと違うみたい。コンピューターウイルスみたいな感じで、色んな所を通ってくるみたいよ。」
「でも結局電気が消えるだけでしょ?意外とそんなに慌てること無いんじゃない?」
「いやいや。まだそれが台風とか地震とか…、あるいは電気工事とかなら、対応できる原因だし、私達の心構えとしても色々対応は出来るけどさ。」
「【電気の炎】の火災が発生したら、電気が消えるってだけじゃないの?」
「…アンタさ、スマホ使える?」
「あっ」
私のスマホは電気が切れてから、まだ直ってない。充電もしてみたけど直らない。しかも…。
「スマホ、直接【電気の炎】に触れてないでしょ?」
そうだ、私のスマホは別に【電気の炎】に触れて無いけど切れてしまった。
「なんで切れたんだろ…。」
「色々原因は調べられてるみたいだけどさ。まだ、ハッキリした原因がわかってないみたいよ?なんでもこないだ、道路を走ってる電気自動車が、急に操作できなくなって、歩行者天国に突っ込んで歩行者地獄にしたとか。」
「それはすごい怖いけど… それも【電気の炎】が原因なの?」
「バック・トゥ・ザ・フューチャーみたいにさ…。」
車が走り抜けた後の、車輪の跡。そこをなぞるように、紫色の【電気の炎】の道が出来ていたそうだ。
「今まで起きた【電気の炎】で発生してる火災は、その都度消火できてるみたいだけど、どうすれば確実に消火できるかは、まだ分かってないんだよね…?」
そうだねえ。水掛けたり、消火器使ったり、油ぶちまけたり、科学分析したり、実験したり、除霊したり、色々原因を調べようとやってるみたいなんだけどね。ただアタフタしてたら消えたなんてのもあるし、よくわからんわ。」
なんて呑気に駄弁っているけど、今この街では【電気の炎】のせいで、消防や警察などの関係各所、研究所や国家機関だけでなく、町内会にいたるまで、やっかいな火消し対応に奔走していた。
「警視庁特殊捜査班【ボルテック・バスターズ】にようこそ!」
「はぁ…。」
それからさらに数日後。私と私の仲間数名は、警視庁特殊捜査班【ボルテック・バスターズ】とかいうところに呼び出されていた。
警視庁特殊捜査班とか言ってるけど、私達が居るこの場所は、警察の施設かどうかも怪しい、防災倉庫というか、町内の屋台庫みたいな場所だ。
しかもなぜか私達は水着だ。
「私は、警視庁特殊捜査班【ボルテック・バスターズ】の班長【重留めぐる】!今日は貴方達に、重要な任務遂行のために集まってもらいました!」
そして私の目の前で元気の良い声で自己紹介するお姉さん。特殊捜査班の【班長】と言ってはいるが、私達とお姉さん以外にメンバーは居ない。
(ねぇ… なんで私達水着なの?)コソコソ
(特殊捜査班って… ここただの倉庫じゃ…)コソコソ
(ボルテック・バスターズってなんだよ…ゴースト・バスターズのパクリかよ)コソコソ
(この世界に警視庁って、そもそもあったっけ?)コソコソ
怪しさ夥しい(おびただしい)こと、この上ない状況に、私と仲間達はあからさまに目の前のお姉さんを訝しんでいる(いぶかしんでいる)。
私達がなぜこんな複雑で珍妙な状況に置かれているか。その原因は物凄くシンプルだ。しばし前に【電気の炎】について、野次馬根性よろしく、街中で色々調べていたら、このお姉さんに会った。
お姉さんもその時は水着じゃなくて、きちんとした警察の格好をしていた。最初の印象は、かなり真面目で信頼のおける警察官の鑑(かがみ)みたいな人で、そんな警察のお姉さんが…
「【電気の炎】を完全に消すために、協力してくれる人を探しているの。」
なんて言ってきたら、何かしら力になってあげたいという気持ちや、住民としての正義感ある使命感が沸きあがっても無理はない。
で、協力を申し出て、ついていったら、こじんまりした倉庫に案内され、【ユニフォーム】と称された水着を渡されて着てしまい、今に至るというわけだ。
(AVの企画かよ…。)
我ながら、なんでお姉さんについてきて、水着まで着てしまったのかなあと後悔して思い返すも、要はこのお姉さんの<信用>や<言いくるめ>が大成功したのだなと… 思うのだった。
「…で、私達はどうすれば良いんですか?」
「よく聞いてくれました!貴方達は、これから警視庁特殊捜査班の【秘密兵器】で、巷で噂の【電気の炎】を退治しに行くんです!」
と、元気いっぱいに話すお姉さん。
こんなのに付き合わないで、さっさと帰れば良いんだけどな…、とも思うけど。
(なあ… この人なんかぎこちなくね?)コソコソ
(顔赤いし、汗かいてるし、照れてるよね?)コソコソ
さしずめ、警察の誰か上の人とか、逆らえない人から、意味のわからない無茶振りされて、ヤケクソになってるんだろうなあ… とか、私がもし<心理学>でも使えればハッキリわかりそうな気もするけど、【電気の炎】のせいで、スマホが点かないままなのも正直不便だし、お姉さんには深く突っ込まないで、協力することにした。
「では、任務の説明に入りますね。」
そう言って、私達の目の前にいくつかのプラスチックで出来た銃のようなおもちゃを置く。片手で扱うハンドガンと呼ばれるタイプ形をしているけど、銃口は野球ボールが入りそうなほど大きい。
「…? これ何ですか?」
「人を殺傷する本物の銃と大きく違うことは、見ればわかりますよね。これは【電気の炎】を消火できるペイント弾を打ち出すことのできる特殊な銃です。」
いわく、大きく開いた銃口からペイント弾を入れて、トリガーを引くと発射されるという、とてもシンプルな構造のようだ。このペイント弾は、コンビニとかに置いてある防犯用ペイントボールと同じで、対象に当たると、はじけて中身が飛び出るらしい。
さらにペイント弾の中身は、電気を通さない絶縁体のような性質を持つ液体が含まれているらしく、それが【電気の炎】を消火するのだそうだ。
「…なるほど。【電気の炎】には、電気の液体ってわけですか。」
そう言いながら、私はチャポチャポと音がする、野球ボールくらいの大きさのペイント弾を手のひらで転がす。
…転がしていると、ふいにグニョグニョと、ボールの中身が動いたような感触が伝わる。
「…? 中の液体って、勝手に動く性質でもあるんですか?」
「そうね、電気や火に強いスライムみたいなものだと思ってもらえればいいわ。」
なんでも、この中の液体は数が少ないらしく、一人十発程度しか無いようだ。
「そして、このスライムで【電気の炎】を消火すると、【電気の炎】は近くの電気機器を通って逃げます。スライムはとてもくさい特殊な匂いを発しますので、その匂いを追って完全に消火するわけです。」
「【電気の炎】が逃げるってどういうことです?【電気の炎】は生き物なんですか?」
「生き物かもしれないけど、どんな生き物か詳しいことはわかっていません。ただ、これまでの火災を調査したところ、電気機器を通じて炎が移動しているということだけは、なんとか突き止めることが出来ました。それと、スライムは洋服などに付着したら簡単に落とせないので、人に向かって撃たないでくださいね。」
ああ、だからそれを踏まえて水着なのか。
「まとめると、今回の任務は…
【1.火災が発生したら現場に向かって、秘密兵器で消火する】
【2.スライムの匂いを追って、完全に消火する】
以上です。」
色々とややこしい単語や概念が出てきたけど、まとめてもらうと消火活動と放火魔追跡という、割と耳慣れたものになった気がする。
私達は彼女から、秘密兵器といわれる今回の任務の装備を各々身につけ、あとは火事を待つばかりだ。
「そういえば、お姉さん… 重留さん?班長?なんでこんなことしてるんですか?」
「こんなこと?」
「いや、なんで一人で【ボルテック・バスターズ】やってるんだとか、なんで私達に声をかけたのだとか…。」
「う゛っ。」
待っている間に、なんとなく気になる事を聞くと、わかりやすいくらいに見事なバツの悪い顔をする。
「ええとね…。警察も色々あるのよ。この街は色んな人が居て、色んな事件があるから、貸しを作ったり、借りを作ったり色々ね…。」
はぁ… と、ため息をつきながら、そんなことを呟く。確かに香港は犯罪組織や秘密結社も多そうだし、癒着とかがハンパないんだろうか。
「あなた達に声をかけて、あなた達が付いてきてくれたのは、ただの幸運ね。誰でも良かったわけじゃないけど、少なくともそれなりに行動力と良識ある人が必要だったからよ。」
これまた、はぁ… と、ため息をつきながら、そんなことを呟く。私達に会う前に、一体何人に声をかけたんだろうと思うと、同情したくなる気もするけど、しょうのないことだし、考えないことにした。
『ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!ファン!』
…!? ふいに、私のポケットのスマホがけたたましい音を響かせる。確認してみると、火災警報のアラート…。おかしいな… 電源が切れていたハズなのに…。
『ウーーーーーーゥーーーーーウウーーーーーーーー!!』
そして、その直後、あの怖さを煽るような特徴的な音が聞こえてくる。
「さ、待たせたわね!」
彼女も私達も、咄嗟に秘密兵器を持って立ち上がる。
「場所は?」
「ええと… うん、【北角政府合署(ノース・ポイント・ガバメントオフィス)】。行きましょう!」
トランシーバーのようなもので、どこかと連絡を取りながら、どこに停めてあったのか、赤と白のペイントがされた、ハイエースのようなキャラバン型の車を持ち出し、私達に乗るように促す。
(これ… ゴースト・バスターズで見たぞ…。)
「さあ、【ボルテック・バスター】(消火活動)の開始!」
私達が乗り込んだ車は、ファンファンとサイレンを鳴らしながら、火災現場に急行していく。
このシナリオは、ちょっと変わった火事を、探索者のみんなで消火しよう!というシナリオだ。
探索者の誰か一人が、ネットやSNSにアクセスできる、スマホを必ず所持している前提ではじめること。
探索者達はある日、街中のいたるところで【紫の炎】が広がる火災を目撃する。探索者が火事について調べるならば、PCやスマホを使って<コンピューター>と<図書館>に成功すれば、一番リアルタイムの情報が早いSNSで、様々に飛び交う情報の中から【炎が電気を燃やす】といった共通のワードを見出すことができ、街の火災は通常の炎ではなく、電気を燃やして消してしまう【電気の炎】である、という情報を手に入れることが出来る。もし、<コンピューター>と<図書館>に失敗した場合でも、羅列された情報の中から<アイデア>で閃いたことにしても良いだろう。どちらも失敗してしまっても「なんか紫色の炎の火災が起きて、街が停電してる」くらいのことは分かる。
※もし探索者が、PCやスマホを使って調べようとしなければ、PCやスマホから火災警報のアラートが鳴ったことにして、調べさせるようにしてもいいだろう。
上記の処理が終了した時点で、探索者の持つPCやスマホなどのデバイスは、急に電源がきれてしまったようにウンともスンともいわなくなってしまう。これに対し、現状ではどんな技能を用いても解決することはできない。しばらくすると(通常の火災を消火する何倍もの時間が経過すると)外の火災は無事消火され、シナリオ内の時間は、翌日あるいは数日後に飛ぶ。
【紫の炎】の最初の火災の翌日、あるいは数日後。街では度々、【紫の炎】の火災が発生している。探索者は聞き込みなどの情報収集を行うことで、今回の事件は【電脳炎上】と呼ばれ、【紫の炎】は【電気】を燃やす【電気の炎】だという、確かな情報を得ることができる。しかし、確かな情報といっても【電気の炎】そのものについては、分かっていないことは多い。探索者は情報収集で、以下の2つを知ることが出来る。
・【電気の炎】は通常の炎と違い、人体に火傷を負わせたり、紙などの物体を燃やしたりはしない
・【電気の炎】が直接触れなくても、途端に電気が消える可能性もある
探索者が上記の情報収集を終えると、【重留めぐる】という警察官の女性に声をかけられる。【重留めぐる】は、自身の警察手帳を出して身分を明かすとともに、【電気の炎】の火事を解決するために、【警視庁特殊捜査班】の操作に協力してほしいと、探索者達に協力を要請する。
探索者達がスムーズに協力を請け負うと、【重留めぐる】は探索者達を防災倉庫というか、町内の屋台庫みたいな場所に案内し、明らかに水着にしか見えない【ユニフォーム】と、明らかにおもちゃにしか見えない【秘密兵器】を探索者に渡し、探索者が着替え終わったら、今回の任務の説明を始める。
探索者は【重留めぐる】から、今回の任務について、以下の情報を与えられる。
・今回の任務は【電気の炎】を完全に消化すること。
・これまでの火災から、【電気の炎】は電気機器を通じて移動している生き物のような存在であることが確認されている。
・【秘密兵器】は、電気の炎を消してしまう絶縁体のような液体が入ったペイント弾を十発撃ちだせる。これで発生した火災を消火する。
・ペイント弾はとてもくさい特殊な匂いを発する。この匂いが付着した【電気の炎】を追跡して、完全に消化することが今回の目的。
・ペイント弾は、射撃系の武器技能、あるいは銃を使わず<投擲>で使用することが出来る。
今回の任務になぜ探索者達が選ばれたのかということや、【警視庁特殊捜査班】について【重留めぐる】に質問すると、彼女はいかにもバツの悪い表情をし、込み入ったことは話せないが、「仕方がないけど、誰かがやらなければいけないこと」といったような、モヤッとした気苦労話みたいなことを仄めかしてくれる。これに対し、探索者が何らかの交渉技能やロールプレイで掘り下げるのであれば、【重留めぐる】は警察内部で提案された【電気の炎】を消火する様々な対策のうち、「水着を着ておもちゃの銃で消火する」という、おかしな案を担当するという、貧乏くじを引くハメになったことを教えてくれる。(彼女が今回の任務を行う本当の理由は別にあるが後述)
【重留めぐる】から説明を受け終わった頃に、【導入1】で電源が切れてしまったはずの探索者のスマホから、火災警報のアラートが鳴り、火災の発生を知る。探索者は【重留めぐる】とともに【北角政府合署(ノース・ポイント・ガバメントオフィス)】に急行することになる。
※上記の進行の最中、探索者およびPLが【重留めぐる】に疑念を抱いて、協力を拒否した場合、KPはPLに見えないようにシークレットダイスを振ること。シークレットダイスを振ると、不思議なことが起こり、探索者はなぜか【重留めぐる】を信用して、彼女を疑うことなく協力をしてしまう。セッション終了後、PLにつっこまれるようなことが有れば、彼女は<説得><信用>99%の技能の持ち主で、探索者は彼女に説得されてしまった ということにしよう。あるいは協力してくれないと、シナリオが先に進まないとかぶっちゃけて。
【電気の炎】の消火
・【電気の炎】の消火はDEX行動順の戦闘ラウンドで行う。【電気の炎】は大きく燃え広がっているため、【電気の炎:下部】【電気の炎:上部】という、二体のデータとして取り扱う。
・【上部】【下部】それぞれの耐久力は【探索者の人数×50】で、それぞれ戦闘ラウンドの最後に【探索者の人数×5】回復する。
・探索者がペイント弾の発射に成功すれば、一発につき【10D6+10】の耐久力を減らすことが出来る。この消火活動に【重留めぐる】も、DEX10、ペイント弾の成功率50%で参加する。
・【上部】は、その名の通り高い場所で燃えているため、【上部】を消火する場合は技能成功率が半分になる。1ラウンド消費して<登攀>で高い場所に移動するか、<跳躍>と組み合わせて挑戦すれば、成功率の低下は解消できる。
上記の状況描写としては、【電気の炎】は、縦にも横にも【探索者の人数×50メートル四方】に燃え、徐々に広がっている。ペイント弾一発につき、約20~30メートル四方の炎を消すことが出来る。
【電気の炎】は、【上部】【下部】どちらかの耐久力が0になった時点で、残った片方が。近くの電気機器(街頭モニター、信号機、通行人のスマホ など)の中に逃げ込む。しかし、逃げ込んだ先からはペイント弾のとてもくさい特殊な匂いが溢れ出て、その匂いが急に薄らいでいくのを探索者は感じることが出来る。つまり【電気の炎】が逃げているのだ。
【電気の炎】は合計三回逃げる。一回目は少し離れた信号機に、二回目はさらに先に停車されていた車に潜んでいる。探索者が技能成功で【電気の炎】の場所を特定すると、その場所からはとてもくさい匂いが溢れ出している。そこにペイント弾を撃つと、【電気の炎】はたまらず飛び出し、また別の近くの電気機器を通じて、どこかへ逃げ出す。
【電気の炎】が三回目に逃げ込む場所は、【導入1】で電源が切れてしまったはずの探索者のスマホ。二回目に【電気の炎】が近くの電気機器に逃げ込んだ後、その匂いが急に薄らいでいくが、少し経つとスマホを持っている探索者から、とてもくさい匂いが溢れ出てくる。PLのメタな閃きで、スマホに潜んでいることを思いつけば、スマホにペイント弾を撃つと、【電気の炎】は再び飛び出してくる。もしそれに気づかないのであれば、スマホを持っている探索者にペイント弾をぶちまけるという楽しいことになる。
どちらにせよ、ペイント弾をぶちまければ【電気の炎】は飛び出してくる。三度目に飛び出してきたときは、大分弱っているような燃え方をしていて、どこかに逃げることはできない。探索者の誰かがペイント弾を撃つことで、完全に消化しきることができる。
無事【電気の炎】の消火を完了すると、周囲の消火活動や救出活動も落ち着き、探索者達は周囲の人々からの拍手と感謝をもって、今回の【電脳炎上】は収束していくことになる。
【重留めぐる】からも探索者に改めてお礼を伝えられ、探索者に渡した秘密兵器を回収する(水着は好きにしていいよ)。そして、今回協力してくれた報酬と、警察から感謝状を渡したいので、明日 香港の警察本部となっている【入境事務大楼(イミグレーションタワー)】に来て欲しいと頼まれる。
翌日、【入境事務大楼(イミグレーションタワー)】に訪れると、探索者達は受付から、署長室のような場所に案内され、混沌都市の警務処(ポリス・フォース)を取り仕切る【林則徐(リン・ツォーシュイ)】より、感謝状と報酬を渡される。
しかし、【林則徐】から「君達だけで、あの不可解な炎を解決できたのはとても素晴らしいことだ。ところで、どのようにして対策を思いついたんだい?」という、不可解なことを聞かれる。
探索者が【重留めぐる】について伝えても、警務処にそんな人物は居ないと伝えられ、感謝状の件についても、【重留めぐる】という人物が手配したのではなく、“だれか”がメールあるいは電話で手配したという、探索者の記憶の事実とは食い違ったものになっている。
場の空気は不可解な謎に包まれ、探索者やPLのアイデア、あるいは【林則徐】の提案で、街の目撃証言や監視カメラをチェックしてみようという流れになるが、それを確認すると、探索者達とともに居たのは【ヘドロのような恐ろしいバケモノだった】という事実が発覚し、探索者は1/1D6の正気度喪失を行い、シナリオは終了となる。
探索者が、もし<クトゥルフ神話>技能に挑戦して成功すれば、街の目撃証言や監視カメラで確認できた【ヘドロのような恐ろしいバケモノ】は、神話生物【ショゴス】であり、【電気の炎】は【クトゥグアの炎の精】であることがわかる。
またその事実から、以下のことを関連付けた推測として理解することが出来る。
【電気の炎】こと、宇宙から飛来した【クトゥグアの炎の精】は、【ナイアーラトテップ】の混沌都市を【クトゥグァ】が察知し、それを焼き払うために【炎の精】が遣わされた。しかし、混沌都市に入り込む際に性質が変化してしまい、電気やネット等の電脳回線を行き交う【電気の炎】となった。最初に混沌都市を、電気の火の海にした後は、探索者のスマホに潜伏していた。スマホの電源が切れてしまっていたのは、【電気の炎】が潜伏していたためだ。
【重留めぐる】こと【ショゴス】にとって、アメーバのように目まぐるしく変化する混沌都市は、溶け込んで暮らすには好都合の場所であったため、今まで混沌都市に潜伏していた。しかし【炎の精】によって、都市が脅かされため、これを阻止すべく、【炎の精】が潜伏しているスマホを持つ探索者に近づき、【炎の精】をあぶりだして駆逐するということが【重留めぐる】こと【ショゴス】の目的だった。
【秘密兵器】に使用されていた、絶縁体のような性質を持つくさいスライムは、電気や炎に強い【ショゴス】の身体の一部で、自分の身体をちぎっているため、弾数は一人十発程度しか与えられなかった。
私達は【電気の炎】を追い詰め、無事消火することに成功した。
「まさか、私のスマホに潜伏していたなんて…。」
私の体からペイント弾のくさいにおいが、猛烈に においだした時は正直焦った。水着に着替えたときに、念のため【秘密兵器】が入ったリュックサックに入れてきたけど、まさかスマホに入っていると誰も気づかなかったから、私は仲間達からペイント弾の猛攻を受け、ドロドロのグチョグチョの酷い有様だ。
「ごめんね…?大丈夫?」
「いや、まさかスマホとは思わなくて、お前が電気の炎の親玉かと…」
「いやー!水着でよかったね!!」
などなどと、仲間達は私に悪気はなく申し訳なさそうに謝るけど、私が近づこうとすると、やっぱり後ずさりするのであった。
「ま、まあ… その水着は処分するなり、洗うなり好きにしちゃって大丈夫ですし、これにて無事一件落着ですね!よかったあ…。」
めぐるさんも結果オーライ的な雰囲気で、場の気まずさをなんとかしようと頑張っている。あぁ、このベトベトをおとしたい。
「まあ… 潜んでたのが私のスマホじゃなくて、仲間のだったら、私も同じことしてたと思いますし大丈夫ですよ。それより早くシャワー浴びたいんですけど?」
「そ、そうですよね!えぇと、シャワー、シャワー… あ。」
キョロキョロとシャワーがありそうな場所を探すめぐるさんが気づいた視線の先には、放水銃を構えてめっちゃ良い笑顔してる、なんか近所の消防団ぽい人が。
(うそん。いや、優しくするからとかじゃないから。)
・・・・・・・・・・・・・・
放水銃の激しい水撃を受けて、大雑把にくっさいスライムを落とせた私と仲間達は、その後いつの間にか集まって来ていた方々に、事件解決の拍手をもって迎えられ、めぐるさんの取り計らいで、明日 警察で感謝状と報酬を渡されることになった。
くっさいにおいをようやく落とせた翌日。
私達は、香港の警察本部となっている【入境事務大楼(イミグレーションタワー)】に向かい、受付の方に名乗って用件を伝えた。
「あの… 先日の重留めぐるさんとの、電気の炎の、火災消火の感謝状と報酬の件で来たんですけど…。」
「…? あぁ!貴方方がそうですね。案内しますので、どうぞこちらへ。」
エレベーターに乗って、受付の方に施設の上の方に案内される。
(めぐるさんは居ないのかな…?)
キョロキョロしつつも、署長室のような場所に案内された私達を、混沌都市の警務処(ポリス・フォース)を取り仕切る【林則徐(リン・ツォーシュイ)】という方が出迎えてくれた。厳格そうな雰囲気が漂う人だけど、笑顔で感謝状と報酬を渡してくれたので、とても安心した。
「いやあ、君達のような住民がこの都市に居てくれてとても光栄だ。君達だけで、あの不可解な炎を解決できたのはとても素晴らしいことだ。ところで、どのようにして対策を思いついたんだい?」
(え?)
「あ、いえ。こちらの重留めぐるさんに協力をしたので、詳しいことは…。」
「重留…?君、すまないがどこの部署の者だったかな?」
と、林則徐さんは案内してくれた受付の方に尋ねる。
「ええと… 少々お待ちください…。 …。 …あれ?おかしいですね、そのような者は存在しないようです。」
受付の方は、タブレットのようなものを取り出し、何やら検索するも、めぐるさんのデータが見当たらないようだ。
「そんなことはないだろう。彼らの活躍の報告や感謝状と報酬の手続きの記録が残っているはずだ。」
「それが… 痕跡があるにはあるのですが、名前の部分が文字化けしてしまって、解析判別ができなくなってしまっているんです。」
??? どういうこと?めぐるさんは警察の人じゃなかった …ってこと?でも、混沌都市は色んなおかしなことがあるからなあ。
「うぅむ… シゲトメメグルとは誰なんだ?匿名の有志だったのだろうか。そうだとするなら、彼女が誰なのか知らなければならないな。」
「あのー… 警察のシステムとかよくわかんないけど、街の監視カメラみたいなのとかに映ってません?それと住民データベースを照合して調べるー…とかできるんじゃないですか?」
仲間の一人が発案する。なるほど、私も難しいことはよくわからないけれど、そういうことも出来そうだ。
「君、出来るか?」
「は、はい!そうですね、少々お待ちください…」
…
…
…
「え…」
「え、なにこれ」
受付の方の顔が不安を帯びた表情に変わり、みるみる顔の色が青くなっていく。
「え、え? え? え!? あっ…」
そして、タブレットを持つ手がブルブルと震えだして、ついにはカシャンと落としてしまう。
「君、大丈夫か!どうした、何を見た!」
林則徐さんがタブレットを拾い上げ、私達もそれを覗き込む。
タブレットに映っているのは、電気の炎を追い詰めている私達の動画だ。
街を燃やす電気の炎。そして、秘密兵器を持ってペイント弾を発射する私とその仲間。
そして、そのすぐ傍には、ヘドロのような恐ろしいバケモノが映っていた。
Illustrated by 接続設定 警視庁特殊捜査班【ボルテック・バスターズ】にようこそ!
クトゥルフ神話TRPG動画「初めてのクトゥルフ」の登場人物。行方不明認定死亡となった故人。説得や信用が得意な警察官で、2010年代の日本の社会的常識や良識を基準にした秩序ある行動をとる人物。今回のシナリオの彼女は彼女本人ではなく、彼女の姿形や性格に擬態している神話生物ショゴス。絵に描いたような、真面目で正直者で普通な人であるため、混沌都市あるいは混沌の使者ナイアーラトテップのような「混沌」への対応力があまりにも弱く、不幸な役回りや酷い目に遭いやすい人間性をしている。今回のショゴスは彼女の姿となって、混沌都市での日常をおくっていたが、彼女の性格や価値観に感化されたせいか、今回は人間の手助けをするという奇妙な役回りをしている。