「よくゲームとかで、歴史上の偉人を可愛い萌えキャラに女体化するじゃん?これ実際に生きてる人間にやったら、チョー面白いよね。」
そんな声が聞こえた気がした。いや、気のせい気のせい。
でも、何億年も生きている邪悪な存在がいたとしたら、それがたとえどんなに凶悪で恐るべき存在だったとしても、あまりに長い時間の気まぐれで、そのようなことを思いついて、ちょっとした遊びに興じることもあるかもしれない。今回は多分そういうお話。
「スタンレー・ホー」という人は、混沌都市で「カジノ界の帝王」とよばれるほどの、生命力溢れる壮年の人物だ。一時期は、マカオのカジノリゾートのほとんどが彼の手中にあり、恐るべき権力と、多大なる影響力をもっていた。
今は… 今はどうだろう?カジノの全てを支配するというようなことはしていないかもしれないが、それでもその威光は健在といったところかもしれない。
私とその仲間達は、この混沌都市を探索する中で、意外にも彼とちょっとした関わりを持つことがあった。それは最近のことだったか、もう数ヶ月経ったのか、この世界では時間という概念すら曖昧だけれども、それでもその時の彼の雰囲気はなんとなく覚えている。
いわゆる「大物」。いわゆる「フィクサー」。いわゆる「VIP」のような人で、パっと見ただけでも、この人は「格が違うぞ」というオーラをひしひしと感じたものだ。
私とは生きる世界も価値観も全く違う人。たまたま偶然関わることはあるかもしれないけど、それくらいじゃないと縁が無い人だと思っていた。
だからこそ驚いた。そんな彼から力になって欲しいと、私達のところに連絡が来たのだから。
「俺の事を覚えているか?そう、スタンレー・ホーだ。実は折り入って君達に頼みたいことがある。」
「いや、身近な者には相談できない。しかし、誰でも良いというわけじゃあない。これはデリケートな問題だ。君達のように、この世界を探索できる程度の行動力と、俺に近すぎずも、遠すぎない関係にある君達でないと頼めない。」
「俺はワケあって外に出ることは出来ない。この連絡手段でも話せない。直接だ。困ったことに味方が多ければ、その分敵も多くてな。誰に調べられているか分かったもんじゃない。」
「直接だ。直接俺に会いに来てくれ。俺はマカオのグランド・リスボアに居る。受付に用件を伝えてくれれば、俺の部屋まで案内するように言っておく。」
「難しいことを頼もうってわけじゃない。誰にでも出来る仕事だ。では、待っているぞ。」
…と、彼からは一方的に用件だけ伝える連絡で終わった。こっちの意見なんかまるで聞く気はない… というよりも、どこか込み入った事情があり、身近な人にも相談できないような状況みたいだ。どことなく余裕が無いのかもしれない。
大分久々の連絡だし、ぶっきらぼうだし、一方的だけども、彼のような人物が、わざわざ私達に頼んできたのだから、無下に断るのもちょっと気が咎める。どんな依頼かは分からないけれど、頼られて悪い気はしないし、とりあえず行くだけ行って話を聞いて、お願いを聞くかどうかは彼の話を聞いてから決めても良いだろう。
私は仲間達に「スタンレー・ホー」から連絡があったことを伝え、都合を併せてマカオのカジノリゾート「グランド・リスボア」で待つ彼の元に向かうことにした。。
「グランド・リスボア」は、蓮の花をモチーフにした形をしている、とても特徴的で巨大なビルが有名だ。遠くからでも、その形はスグわかり、近くに寄ってみると、その冗談みたいなフォルムと煌びやかな佇まいに圧倒される。
もし、訪れたのが夜であったなら、「グランド・リスボア」とその周辺のカジノリゾートは、レインボーのネオンに輝きだし、まさにパレードのような幻想世界が立ち現れたかのような姿で、きっと私達を魅了してくれるだろう。
周囲のビルや建物、ゴージャスな金持ち達の着るドレスや、高級そうな車を横目に、私達は「グランド・リスボア」の受付まで辿り着く。いつもの部屋着みたいな恰好で来てたら、なんとも場違い感と毛恥ずかしさで死にそうになるが、周りにいる金持ち達は多分そんなこと気にしないのかもしれない。
いやそれ以前に、ここは「みんなと違うことを気にする」という概念がそもそも存在しない場所だっけか…。「みんな」なんて曖昧な集合的概念は存在せず、一人一人が見た目も価値観も全然違って、「みんな」という概念があるかどうかすら、怪しいのだから。
そんなことを考えながら、おずおずと受付で用件を伝えると、どこから現れたのか、屈強なグラサンスーツのエージェント達が登場し、私達はあれよあれよと、建物の奥に連れ込まれてしまった。
エージェント達に連れていかれたのは、エレベーターだった。しかもその装飾に、ライオンだか、虎だが、豪華な彫像がデコレートされた、いかにもVIP仕様の超豪華なつくり。行き先の階は、今居る一階と最上階らしき二つしかない。
なるほど、「スタンレー・ホー」専用、直通エレベーターというわけだ。
私や仲間達は、エージェントに「スタンレー・ホー」について、いくつか聞いたりしたが、彼らはあまり多くは話してくれない。直接会って聞けということだろうか。
「よく来てくれた。まあ、かけたまえ。」
(んんっ!?)
最上階直通のVIPなエレベーターで辿り着いた先は、語彙力がまるで足りないが、最上階まるまるワンフロアぶち抜いたやはりVIPな部屋だった。
窓からマカオのカジノリゾートの景色が良く見え、天井にはいかにも豪華なシャンデリア。大理石のような壁や床は鏡のように私達を映すほど磨かれ、贅沢なレッドカーペットが、エレベーターから部屋の奥まで伸びている。
流石に部屋の中に虎は飼っていなかったが、大きなピアノやらバーカウンターがあり、ここで一杯やれたら最高な気分だろうなと思う。
えてして、そんな部屋を眺めながら部屋の奥に歩みを進めると、はたして私達出迎えられた。
「かけたまえ。」
その声は威厳と風格ある、ややしわがれた、聞く者を圧倒するような壮年の男性のものではない。そして、私達の目の前に居るのも、カジノの帝王の異名を欲しいままにする風格漂う大物でもない。
「かけたまえ。」
そう言いながら、高級そうなソファーにギシリと… いや、ふわりと沈み込み、その所作は見る者を魅了してやまない優雅さで、あふれ出るフェロモンにくらくらさせ、思わず抱きしめたくなるほどの良い匂い。
「あの…、ホーさんに会いに来たんですが。」
「俺だ。」
スタイル抜群の、絵に描いたような美女が、大真面目にそう言う。
「あ、奥さんですか?スタンレーさんはどちらに…。」
「俺だ。」
西洋人のようなゴージャスな金髪と、東洋人のようなしなやかな目鼻立ちをした、絵に描いたような美女が、大真面目にそう言う。
「え… えーと。」
「俺が!」「スタンレー!」「ホーだ!!!」。
「…で、これがそのランプだ。」
スタンレー・ホーの変貌ぶりに唖然としたままの私達に、彼は事情を説明してくれた。
なんでも、「グランド・リスボア」にアラブ風の男が訪れ、その人物から魔人が出てきて願いを叶えてくれるという「アラジンと魔法のランプ」に出てくるような、「願いを叶える魔法のランプ」を高値で買ったそうだ。
その時は酒も入っていたので、話のネタにと冗談半分酔狂半分にと買ったが、いざ実際使ってみると、なんと本当に魔人が現れた。
「スタンレー・ホー」は、なんでも手に入れられるような人間で、魔人に頼るメリットもあまり感じていなかったが、とりあえずその時は女が抱きたかったので、とりあえず適当に「絶世の美女が欲しい」と願ってみた。
すると、魔人は彼の願いを聞き入れたが、彼の想定していた形では願いは叶えられず、何故か「スタンレー・ホー」本人が「絶世の美女」になってしまったという。
「これがその… 魔人が出てきたランプですか…。」
からかわれているのかと思いつつ、ランプを手に取る。ちょっとススで汚れた、鈍く輝く黄金のランプだ。取っ手が付いた壺型で、なんだかよくわからない象形文字や絵文字のようなものが描かれている。
「アラジンの魔法のランプと同じように、擦ると魔人が出てくる。しかし、アラジンと違って魔人は願い事をひとつしか叶えてくれない。しかも、一度願いを叶えてしまった人物が再び擦っても、二度と出てこない。つまり俺は、誰かに元に戻してもらうよう、魔人に頼んでもらわなければ、一生このままというわけだ。」
溜息交じりに「スタンレー・ホー」は、そう呟く。本来ならその溜息は、年齢や外見に見合った、哀愁と苦心漂う、どこか灰色のスモッグのような雰囲気を感じるところだが、今の彼の溜息は、色気と熱気と憂いが混じり、感じるのは哀愁ではなく、別のものを感じてるんじゃないかと思ってしまうかのような豊潤さだ。
「で、君達に魔人に俺を元に戻してもらうよう頼んでほしいということだ。身内にこんな姿になった俺を見せるのは屈辱的過ぎるし、敵に知られれば危険なのは言うまでもない。ある程度信用できて、それほど近くにいるわけではない、君達のような者が、うってつけというわけだ。」
俺に協力してくれれば、魔人ほどではないが、出来る限りの礼はしよう。間違っても、おかしなことをしようなどと思うなよ。と、彼は私達に鋭い睨みを効かせるが、百獣の王に睨まれた哀れな草食動物というよりかは、発情した交尾前のカマキリのメスに睨まれているという感じだ。
過程の意味が違うだけで、どちらにしろ喰われて死ぬという恐怖が、背中を這いまわるのは、言うまでもないことだ。。
「アッサラーム・アレイクム!全知全能の神による秩序の平和をあなたに。」
「え?心穏やかじゃない?そりゃあここは混沌都市だからね。よかったら無名都市に案内してあげよっか?あそこはいいよお、砂の中で静かで、あっ もしかしたらワニ人間に食われるかもしれないけど???」
「お、さっきの厳ついオッサンじゃ~ん。どーも、どーも!どう?美女の気分は?ねえ、今どんな気分?男より全然良いでしょー!男はねー、嫉妬深くてマウントばっかとってきて、理屈っぽいくせにガキだから、ウッザイよねー!世の中全員美少女になればいいのに!」
「あら?新しいお客様ー!?今度はあなたがご主人さまね?さあ、なんでも願いを言って!うっそー!さっきもう聞いたから知ってる!とはいっても、人間の願う事なんて、金と権力と肉欲くらいしか無いんだけどさ!」
「あ、最近あった面白い願い教えてあげよっか?タピオカ大好きって子がいたから、その子をタピオカにしてあげたの!!最高でしょ!!」
はたして、ランプを擦って出てきた魔人は、褐色肌の青年であったが、出てきた瞬間喋る喋る。こちらがツッコミを入れる暇も、合いの手を入れる暇もない。こちらが相槌すらうたないのに、マシンガンのように口から吐き出される、言葉の弾丸の嵐。
「90年代くらいの映画にちょくちょくいたよな、こういう変な魔人…。」
「なんだっけ、ジム・キャリーだろ?それで声優は絶対山ちゃんだ…。」
そんな魔人を呆然と眺めながら、会話を交わす仲間達。私は知らないけど、どうやら既視感があるみたい。
「さあ~~~~…… おしゃべりはこのくらいにして、アブラカタブラ、エコエコアザラク、ホンジャマカホンジャマカ、ジュゲムゲジュゲム…」
「その願いを… 叶えよう!」
そして、一方的な魔人が私の願いを叶える。
あぁ、知ってる。このノリは分かってる。
辺りにはモヤモヤと謎の煙が漂い始め。その煙が蜃気楼のように、過去や未来や様々な景色を映す。
わかってる。この煙が晴れた時、私の願いはきっとトンチンカンな形で叶えられる。あぁ… 果たして私は無事に、ここに来た時の姿のまま帰れるのだろうか?
このシナリオは、魔法のランプとその魔人に願いを叶えてもらうという体裁で、探索者が色んな姿に変わっちゃったりするのを、てんやわんや楽しむシナリオだ。
このシナリオは、探索者達が「カジノ界の帝王 スタンレー・ホー」と、何らかの接点を持ったシナリオをクリアしているか、あるいは「スタンレー・ホー」と何らかの接点があった前提を付け加えた上で、始められる。「スタンレー・ホー」と探索者の関係は、友人や知人といった関係性が推奨されるが、「スタンレー・ホー」とコミュニケーションをとれないほど、壊滅的な関係性でなければ、何でも構わない。
探索者達は、過去に接点があった「スタンレー・ホー」から、ある日電話やメールなどの直接会わない手段で連絡を受ける。
連絡の内容は「誰にも相談できない深刻な問題を抱えてしまったので、直接会って相談にのってほしい。探索者達に力を貸してほしい。」という内容だ。
「スタンレー・ホー」は「マカオ」の「グランド・リスボア」という、カジノリゾートの最上部。VIPな部屋を拠点としていることは、多くの人が知っている。探索者達が「グランド・リスボア」に赴くと、受付の人や、ガードマンのような人に「スタンレー・ホー」の部屋へ行ける、関係者専用のエレベーターに案内される。また、「スタンレー・ホー」のことを彼らに聞くと、彼らは何も知らず、「スタンレー・ホー」は、ずっと部屋に引きこもっているということだけを教えてもらえる。
探索者達が「スタンレー・ホー」の部屋に辿り着くと、豪華な部屋の中に案内されるが、なんとそこに居たのは、中高年の男性である「スタンレー・ホー」ではなく、スタイル抜群でセクシーな姿に女体化してしまった「スタンレー・ホー」だった。
なんでも、「グランド・リスボア」に訪れたアラブ風の男から、魔人が出てきて願いを叶えてくれるという「アラジンと魔法のランプ」に出てくるような、「願いを叶える魔法のランプ」を高値で買って使ってみたが、「スタンレー・ホー」の思った通りの形で願いは叶えられなかった。「スタンレー・ホー」は、「絶世の美女が欲しい」と願ったそうだが、何故か自分が「絶世の美女」になってしまった。
「願いを叶える魔法のランプ」は「スタンレー・ホー」の部屋にある。ちょっとススで汚れた、鈍く輝く黄金のランプだ。取っ手が付いた壺型で、なんだかよくわからない象形文字や絵文字のようなものが描かれている。
擦ると「アラジンと魔法のランプ」のように魔人が出てきて、何やら呪文のようなことを行い、一つだけ願いを叶えてくれるそうだ。三つじゃなくて一つというのがちょっとケチで、しかも一度願いを叶えてしまった人物が再び擦っても、二度と出てきてくれないそうだ。
かくして、そのようにしてランプを擦って魔人を呼び出す必要がある。そのようなロールプレイを行ったうえで<POW×5>のロールに成功すれば、ようやく魔人が出てくる。
魔人はアラビア風で褐色の若い男だ。別に恐ろしい怪物のような見た目はしてないし、そんなに驚くように出てくるわけではないので、正気度は減らなくていい。
魔人は出てきた瞬間「その願いを叶えよう!」と言い、何やらアブラカタブラ怪しげな呪文を唱えながら、手を虚空にくねくね動かしはじめる。ちなみに探索者が魔人に何か話しかけたり質問しても、魔人は話を聞かなかったり、ランプの中は狭いとか愚痴を言ったり、君のヘアスタイルオシャレだね!とか、唐突に意思疎通が出来ていない、意味の分からない返答をしたりする。魔人は勝手なのだ。
しばらくすると、魔人が手をくねくねしていると、虚空にモヤモヤと幻影のような映像が現れ始める。
探索者が「スタンレー・ホーを元に戻してほしい」と強く願っても、探索者の人数が二人以上の場合、いきなり成功するわけではない。探索者の人数が二人以上の場合、魔人が素直に願いを叶えるのは、最後の一人の願いだけだ。
最後の一人以外の探索者がランプを擦ると、魔人が出てきて「その願いを叶えよう!」を言い、手をくねくね動かしながら、虚空にモヤモヤとした幻影のような映像を出しはじめるが、そこに映っている映像は「スタンレー・ホーを元に戻してほしい」という願いとは、全く関係ない。
最後の一人が、「スタンレー・ホーを元に戻してほしい」と強く願った時は、その映像には、とても渋くて男らしい「スタンレー・ホー」が活躍しているような映像が映り、しばらくして映像が消えると「スタンレー・ホー」は、元の渋くて男らしいナイスミドルな姿に戻る。
最後の一人じゃない者が、「スタンレー・ホーを元に戻してほしい」と強く願った時は、「スタンレー・ホー」の映像ではなく、「探索者の欲望」が映像化したものが現れてしまう。「探索者の欲望」は、KPが探索者シートに書かれている設定や、探索者の性格などのフレーバー的要素を参考に好きに決めて良い。
例えば、可愛い猫のペットが欲しい探索者なら、映像に猫が映り、しばらくすると映像は消え、探索者は猫になってしまう。
例えば、強くなりたい探索者なら、映像に武器や兵器が映り、しばらくすると映像は消え、探索者は武器や兵器になってしまう。
例えば、心に欲望が無いような達観めいた探索者であれば、映像に石ころが映り、しばらくすると映像は消え、探索者は石ころになってしまう。
例えば、誰かと相思相愛になりたい探索者なら、映像に愛している人物が映り、しばらくすると映像は消え、探索者は愛している人物になってしまう。
例えば、探索者が金持ちになりたかったら、映像に金塊が映り、しばらくすると映像は消え、探索者は金塊になってしまう。
などなど、まるで狐や狸がイタズラで人間を化かすような、ブラックジョークの効いた形で、探索者自身が変化して願いが叶えられる。正気度を1/1D6喪失する。
探索者が意図しない形で願いを叶えた魔人は「君が口に出した言葉は聞こえなかった。それよりも君の本能の欲望の声が強く強く聞こえたから、そっちを叶えてあげたよ。えらいでしょ?」と、うそぶくと魔人はランプの中に消える。
もちろん、「スタンレー・ホーを元に戻してほしい」という願い以外の願いを魔人願っても、魔人はその願いを聞き入れて、探索者が意図しない形で願いを叶える。
なお、探索者が全員失敗して、別のものになってしまった場合、誰か別の探索者やNPCを呼んで協力を仰がないと、このシナリオでは元には戻れない。また、元に戻れないまま、シナリオを終える探索者も出る可能性は大いにあるが、次のシナリオを始める頃には、なんか不思議なことが起こって、元に戻ってる。探索者のプレイヤーが、元に戻らずそのままで居たいということであれば、そのままの姿で居てもいい。
無事、「スタンレー・ホー」を元に戻すことが出来ると、探索者はお礼の言葉と報酬と、「願いを叶える魔法のランプ」を貰うことが出来る。「スタンレー・ホー」は「願いを叶える魔法のランプ」は不気味で、もう持っていたくないそうで、誰かに売るなり捨てるなり好きにしてくれ、と渡してくれる。
鈍く輝く取っ手が付いた壺型の黄金のランプ。なんだかよくわからない象形文字や絵文字のようなものが描かれている。心の奥底で叶えたい願いを強く想い、それを言葉に出しながら擦するロールプレイをしながら、<POW×5>のロールに成功すると、ランプの中から魔人が出てきて、願い事を一つだけ叶えてくれる。
ランプから出てきた魔人は「その願いを叶えよう!」と言い、実に勝手な自己解釈を加えた形で、ランプを擦った者の願いを改変させて、ブラックジョーク溢れるかたちで願いを叶える。一度願いを叶えた者が再び擦っても魔人は出てこない。
叶えられた願いは、暫くすると不思議なことが起こって、元に戻ったり戻らなかったりする。猫探索者になりたい方や、探索者の性別を変えたい方などに使ってあげてください。
※魔法のランプを使用したことで、ユーザーに何らかの障害や問題が発生した場合は、ナイアーラトテップが全ての責任を負いますので、ご質問や不明点、クレームなどは全て未知なるカダスにお問い合わせください。
「願いを叶える魔法のランプ」に対し、<クトゥルフ神話>技能に成功すると、このランプは「狂えるアラブ人 アヴドゥル・アルハザード」が「無明都市」で発見した「アルハザードのランプ」であることがわかる。ランプの文字に対し、インドかヨーロッパ圏の言語の技能に成功すると、紀元前の「サンスクリット語」よりも古い文字であろうことは理解できる。
「アルハザードのランプ」は、ランプに火をともすと、クトゥルフ神話的な土地の風景や、擦った人物の見聞きした光景や体験の映像を映す。
このランプは、持ち主が謎の失踪をとげるという不吉な現象が起こるが、今回のシナリオを体験した探索者であれば、失踪した今までの持ち主がどうなったかは、「あっ(察し)」といったところだろう。この世界のどこかで、女体化したアヴドゥル・アルハザードに出会えるかもしれない。
「スタンレー・ホー」にランプを売った「グランド・リスボア」に訪れたアラブ風の男はニャルだ。ていうか、ニャル以外に誰がそんなことをするというのか。そして、ランプから出てきた「魔人」は、ナイアルラトホテップの闇の従姉妹「マイノグーラ」だ。ランプの中に入り込んで、ニャルと一緒に「アラジンと魔法のランプごっこ」をしながら、人間を色々な姿に変えて、遊んだり食べたりしてたんじゃないかな。おぉ、こわいこわい。
「どうやら… 元の俺に戻れたようだな。感謝する。」
私達はランプから出てきた魔人が、予想通りというべきか素直に願いを叶えてはくれなかったので、紆余曲折はしたが、なんとか当初の目的を果たすことは出来た。
が、しかし。
ある者は、魔人に煩悩を見抜かれ、BLのイケメンになったり。またある者は、癒されたいあまり、けもみみの幼女になったり。またまたある者は、筋肉モリモリマッチョマンの変態になってしまった…。
結局、ちゃんと願いを叶えられたのは、私一人だけで、このカオスな状況を生み出す一番の原因である魔人は、もうランプをいくら擦ってもウンともスンとも言わない。
「報酬は手配させておいた。帰りに受付の者から受け取ってくれ。それと、そのランプもくれてやる。俺はもうコリゴリだ。」
いや、私も要らないんですけど…。
なんか、大したことはしていないのに、凄い疲れた。そんな面持ちで、仲間達はこれからどうしよ…と、思って見てみる。ある者は項垂れ、ある者は鏡の前で惚れ惚れとし、ある者は… あぁ、コラコラこんなところで何をしているのかね。
さぁて、これからどうしようかな…。
とりあえず持っていたくもないけど、このランプがあれば、何かの機会に仲間を元に戻せるかもしれない。もっともその際には、さらなる被害が広がるのかもしれないけれど…。
そう思いながら、グランド・リスボアをあとにした私達を、遠くで誰から見つめている気がした。
Illustrated by 接続設定 その願いを… 叶えよう!
混沌の邪神ナイアーラトテップの従姉妹であるという設定で生まれた神格ではあるが、あまり細かいことはわかっていない。
ナイアーラトテップの一部の化身同様に光が苦手だったり、人間を弄ぶような性格をしている、エキゾチックで可愛いゴルゴンのような女性の姿をしているのだとか。
ナイアーラトテップ自体も、その性質は一定ではなく、性別も固定では無いので、今回のシナリオのマイノグーラもそれに近い性質を持っている。とはいえ、何でもありというわけではなく「変化する(させる)」「人間を弄ぶ」という、ナイアーラトテップらしいトリックスターめいた個性は持ち合わせている。
ナイアーラトテップとマイノグーラの違いは何かと問われても明確には分からないが、少なくとも今回のシナリオにおいては、ナイアーラトテップが「陰キャ」、マイノグーラが「陽キャ」「パリピ」のような位置づけにしている。
計画的に人々を翻弄しようと画策し企むというナイアーラトテップに対し、その場のノリや自分の気分とテンションで人々を翻弄するマイノグーラというイメージではあるが、計画性や目論見といった秩序立った考えがあるナイアーラトテップの方が、まだマシかもしれない。どっちも迷惑なんだけどね。